幻の青黒檀?ー銘木のマグネットの新作 [日々の出来事]
2月末のこと、帯広の国本美術館(笑)に訪れた帰り道、馴染みの銘木屋さんに寄りました。
返り際に「これあげる」と差し出された数枚の木っ端に目が点になりました。
「青黒檀!?」
翌日のこと、この青黒檀を削ってみると中は「あれ!?緑っぽい!?」
ええ、溶剤で湿らせたティッシュで拭いてみてもやっぱり緑色味を帯びている。かつて銘木の世界には黒檀というのは3種類ありましてね。真黒と呼ばれる本黒檀と縞黒檀と青黒檀なんですが、現在普通に流通するのは縞黒檀だけで本黒檀(マグロ)と青黒檀はこの道に入って以来見た事がない幻の銘木だったのです。
「どうしてこんなもんがあるの?」と聞くと、「うん、同業者の古い在庫を分けてもらったんだ」とか。はい、そんなことでもないと青黒檀なんて手に入らないでしょう。
写真にするのがすごく難しかったのですけど、左下が青黒檀で上が縞黒檀、そして右はブラウンエボニーです。青黒檀はやっぱり青に色味が傾いてませんか?濃いオリーブグリーンの細かい縞模様が削ると出て来るのです。だから今見えている緑の縞模様はやがて真っ黒に戻ってゆくんでしょうね、不思議です。
ブラウンエボニーも旭川の材料屋さんが南米から試験的に入れてみたというだけにネットで情報を探してみましたけれど、日本語ではヒットしませんでした。この写真は黒檀3種、青、縞、茶黒檀ということになります。(写真自体が日本初かも!?)こんな材料を使ってマグネットを作ろうと思う事自体イカレてますね。
左はボコテという材でムラサキ科、産地はメキシコあたりとか。
あまりの美しさに25年以上切るのをためらった材です。
左が超希少材の黒柿で右はタガヤサン。このタガヤサンは古い座卓の再利用なんですけど、ムラサキタガヤかもしれません。
左はピンクアイボリー(クロウメモドキ科)その名の通りまるでピンクの象牙のイメージで削る感触は木ではないようなカリカリとした印象でした。
右はチューリップウッド(マメ科)肌色をベースに鮮やかな赤と青紫の縞が入ったこの世の物と思えない美しさでした。これらは数個しか作れなかったので非売で工房コレクション入りです。
これまた激レアのワイルドオリーブ。葉書サイズで5000円とか、めっちゃ高いですね。削ってびっくり、オリーブの香りはするし削った肌がもうツルンツルンで感動しました!
ここまで載せた写真はすべて無塗装の艶なんですよ。比重のある材はペーパーの番手を細かく#1500なんてかけてゆくと、もう塗装が必要ないくらいに艶が出て来ます。その肌触りはほとんどの方が知らないだろうと、あえて無塗装にしてみたのです。
ここからは塗装した方が木味の出るタイプ。
前記事に書いた御蔵島産の桑、島桑ないし金桑と呼ばれる貴重品でしかもその股杢です。右のものは金箔でも貼ったような輝きで、まさに金桑!これもコレクション入り。
選びに選んだ、おそらくロシア産のモミ材のアテ部分ですね。
左はカリンのミニリボン杢?と言ったところでしょうか。4ミリピッチほどで順目と逆目が交互にあるので光の縞になっていて、それを「リボンを並べたようだから」リボン杢という言い方があるんですね。
右は第一級の巨木タイプ、ブビンガ。
右奥がブラッドウッド、左がパープルハート、手前が中国産のビャクシン。
奥左がイタヤカエデの縮杢、奥中が月桂樹の縮杢、奥右がイタヤカエデの瘤。
手前左はヤマモミジの鳥目杢、手前右は白樺の股杢です。
さて最後に驚いていただきましょうか?
これは黒松の脂が多い部分の材です。色が濃いところがヤニの集中しているところ。手前に3ミリの切片がありますでしょう?これを、
奥から光を当てるとヤニの集中したところが透けて見えるのです。こういうヤニだらけの松は黒松、赤松にごく稀に存在するのですけど、これを「ヤニ松」とか「肥松」と言い、これはこれで銘木の扱いなのです。
これはパイン材(欧州赤松)のヤニ松でして、窓際に置いて透かして見ると、、、
どうです?「手のひらを太陽に〜」みたいな、まさに命の色!
ただし、ヤニ松はじわじわとヤニが出てくるのでまめに拭いてやらないといけません。その昔、このヤニ松で出来た床柱なんてどうしてたんでしょうねぇ?その家の奥さんか女中さんが毎日拭き込んでしまいにはヤニの被膜が塗装のようにツヤツヤになったんでしょうかねぇ、、、。
こうした希少材でマグネットを作るって馬鹿げているのかもしれないけど。
銘木って普段の生活で触れる機会がまったくないですよね。それはよほどの豪邸とか超高級料亭にでも行かないと接する機会なんてありません。でもこうして、ごく小さな物にすれば手に入れる事さえ出来る。僕にとってはそこが大事なんですね。
このマグネットを作っている最中に何人かの営業さんがこれを見て、皆感嘆の声を上げてゆきました。
「えー!!!?これ木ですか!!!?えー塗ってないのにこんなにつるつるなの!?」とか
「この色染めたんじゃないんですか、え〜!!!?」とか。
身近にこういう物があると癒され元気をもらえる人が必ずいます。僕はそういう人のために作るんですわね。
近況ーラワン材の家具 [日々の出来事]
暑い日が続きますね。みなさん体調を崩されたりしてないですか?
Kuniは元気でやっております。先月後半から友人の建築家の引っ越しに合わせて家具一式を制作しています。
流し台、吊り棚、食器棚、本棚、デスク。写真は手前がデスクの引き出しで奥が食器棚です。
20日には完成予定ですので後日またちゃんとした記事に出来ればと思いますが、また時間がかかりそうなので今日は写真一枚の記事に。あんまり空いちゃうとまた心配されてしまうので、こうして写真一枚の記事も時々載せてゆこうかと思います。
ではまた、ごきげんよう。
イチイ(オンコ)の一枚板のTV台 [特注家具]
今年の3月のこと、市内に住む方から一輪挿しを注文いただきました。メールの文面から妙に木に詳しい印象があって、不思議に思っていましたら、教育大の技術科のご出身。なんと先輩にあたる方だったんですね。で、木工が趣味で小箱やらフォトフレームやらいろいろと作られているとのこと。
4月に奥様と一緒に遊びにいらした時、「これで何か作れませんか?」と持って来られたのは巾60センチもあるイチイの一枚板でした!イチイという木は全国に分布する木で、(北海道ではオンコという呼び名の方が通じやすい)その名は仁徳天皇が笏(しゃく)を作らせ、その出来映えの良さに正一位を授けたことに由来するとのことです。成長の遅い木ですから普段町で見かけるその木の直径はおおむね15センチ程度で60センチの板が取れる木であれば、その直径は70センチは超すでしょうから、これは神様みたいなもの。その板で何かを作るというのですから半端な覚悟では作れません。そしてご自宅の様子を見せて下さいと訪ねたのが冒頭の写真です。
木工が趣味というだけあって、あちこちにご自身の作品があり、楽しいリビングです。唯一気になったのがTV台。これだけが既製品であることが目立っていたのでした。そこでイチイを使ってTV台を作る事を提案して快諾を得て図面を描きました。
イチイの板は厚みが25ミリ程度しかなかったので、それで本体を作ってしまうと強度が出し切れません。そこで本体はブラックチェリーの突き板で仕上げた丈夫な箱の周りに装飾部材としてイチイを使うという考えです。本体にチェリーを使うのは最終的に焼けた色がイチイとチェリーで良く似ているからです。おまけに引き出しの口板はパインのサーモウッド。これもまたふたつの木の焼け色と似ているんですね。一つの家具の中に三つの樹種が使われるというのも普通ではありませんが、作り立ての色がそれぞれ違っても年月をかけて少しずつ色が似て来るという楽しみもあるわけです。
イチイ材は支給で18万でお引き受けしました。
イチイの板は2箇所を45度に切ってそこにビスケットジョイントで組んでこれを本体にボルト締めという構造です。
これが完成した姿。後ろに既製品のTV台が見えてます。
背面もちゃんと仕上げてますよ。
天板と側面のジョイントを拡大して見ると、
年輪がちゃんとつながっていますでしょう?
耳の部分は自然のままの凹凸を残して一切触らずに面だけをさっと取りました。
ここから見る年輪の細かさは格別です。ざっと数えましたけど樹齢100年を軽く超えていました!
口板はサーモウッドのレリーフです。3種のパターンで作りました。
技を駆使した菱形の繰り返し、
竹の子杢を意図してうねらせた木目、横向きの「ファイヤー!」てな感じ?
えぐった面に出る楕円の木目。同じようでやっぱり一箇所ずつ微妙に違う。虫眼鏡で見ても楽しめますよ。
神様級のイチイの板が圧倒的な存在感を醸し出し、虫眼鏡でさえ楽しめる細部を持ったとてつもないTV台になりました。これはお子さんの代まで使われる事でしょうね。
気さくなご夫婦のお人柄のおかげでとてもさわやかな納品となりました。
Mさん、ほんとにありがとうございました!
追記
数日後メールをいただき、しみじみする内容でしたのでそのまま載せさせていただきます。
「さっそくブログに載せていただきありがとうございます。
30年間手を付けることができずにいた材料が作品(再度命を受け)となり、我が家に居るというのはとても感慨深いものがあります。
出来るだけ「原形をとどめたものを」と考えていただけに作品を拝見した時には、心からよかったと思いました。
友人からは「早く切って作品に」と言われていたのですが、神々しさを感じていて、切ることができませんでした。
ひとえに国本さんのおかげだと思っています。
今、作品を見ながらメールをしていますが、ずっと昔から我が家に居たように溶け込み、どっしり構え、こちらを見ています。
何年か後の変化を、ぜひ見に来てください。」
友人からは「早く切って作品に」と言われていたのですが、神々しさを感じていて、切ることができませんでした。
ひとえに国本さんのおかげだと思っています。
今、作品を見ながらメールをしていますが、ずっと昔から我が家に居たように溶け込み、どっしり構え、こちらを見ています。
何年か後の変化を、ぜひ見に来てください。」