オンタイム プロジェクトー1 「ウォッチスタンドーその1」 [オンタイムさんのお仕事]
すっかりご無沙汰してしまいました。この数ヵ月はその課題でまったくゆとりがなくなり、ほとんど更新も訪問もできませんでした、ごめんなさいね。
さて、僕がソネブロを始めたのは2009年7月ですからまもなく4年が経とうとしています。当時立ち上げたばかりのホームページを宣伝するために始めたわけですが、今はそのページも閉じ、ソネブロに決めるまでふたつのブログを経ての激動の4年でした。
ブログでの大きな目標としていたことがふたつありました。ひとつは画廊さんとのつながりが出来ること。(画廊業とはなんらかの案件に対して協力してくれるアーティストの作品を提案する業務です)そしてもうひとつは、商業空間に僕の作品を採用してくれる企業さんとの出会いです。
画廊さんとは2011年に出会え、数件のお仕事が成立しました。そして、昨年11月、とうとう二つ目の夢が実現に向けて動き出したのです。
今まで、アートの仕事のほとんどは学校などの一般の人には目に出来ない場所でした。ですから誰もが目にすることが出来る空間での仕事がしたかったのです。それは、今だに多くの人が知らずにいる、3次元の木目は人を幸せにする力が間違いなくあると思うから。
(株)オンタイムの社長、鈴木さんとの出会いは2012年11月のメールに始まりました。 個人としてペンスタンドを注文いただき、その後レリーフを問い合わせいただき、まもなく札幌に出張なので遊びに行きたいと訪問されたのです。その時初めてロフトなどに腕時計店を構え、全国に20店舗以上を展開されている会社の社長さんであることを知りました。
気さくで、純粋なお人柄に話が弾み、6月オープンの新店舗のデザインに関わって欲しいというお話をいただき、二つ目の夢の実現に向けて動き出したわけです。
新店舗は横浜みなとみらいに出来た Mark is minatomirai の3階にできる move by ontime 。
まずは今年の1月、営業の方と店舗のデザイナーさんの3人で札幌に来られ、顔合わせをし、その後社長さん個人の「四季のマグネット」を作り、2月には東京での会議に出て具体的な方針は決まりました。それはある限定した場所で木のウォッチスタンドを使い、修理コーナーの待合スペースに小さな国本コーナーも作る。ここには一輪挿しやペンスタンドも置く。さらに修理コーナーのガラスにはレリーフも作るという内容で、これはやりがいもありますが、同時に責任も重いことです。
出会いから感動の展開。帰りの道中は頭がフル回転し、頭をよぎる様々なことを夢中になってメモをする僕がいたのでした。
店舗のデザインに関わるということは、ブランディングに関わるということです。僕が作るものの方向性が間違えば、大変なマイナスになりますから、僕がまず始めたのは仮想のブランドデザインのコンセプト作りからでした。
昔から思っていたのは、木と金属というように質感がうんと違うもの同士というのはお互いを新鮮に見せる効果があるということです。これが根っこの部分。そしてそれを組み合わせることのメッセージ性が大事でしょう。
これだけ携帯が普及してもなお、腕時計をするのは機能とともに自己表現の意味は大きい。それはファッションだったり古いものを大切にする気持ちの表現だったりするでしょう。オンタイムさんは各店に修理工房を併設する店舗展開をしていて、どちらも大切にする姿勢をはっきり打ち出しています。まずこの姿勢を仮想デザインしました。
「すべての瞬間に一期一会の出会いがあります。時計はその出会いを刻々と刻むパートナーです。私たちは時計とあなたの出会いをコーディネートします」と。
通常のウォッチスタンドの多くは透明のプラスティックで出来た、言わば黒子的なあり方です。それを個性のある木のスタンドを使う、その意味。これは随分慎重に考えました。試しにと今までに作ったいろんなレリーフのパーツの上に腕時計を置いてみましたが、どんなに強烈なものの上に置いても時計が食われるという風には見えませんでした。それはまるで新たな出会いを互いが喜んでいるようにさえ見える。これは実に喜ばしい効果でした。僕が作るウォッチスタンドの役割は「強い個性を持ったスタンドとそれぞれの時計の出会いの演出」なのだと決まりました。
そして、待合スペースにある他の作品やレリーフは「木目に何を見出すことが幸せなのか」を示唆するというわけです。
考えてみれば「時計は時間を刻む。そして時間の集積は年輪とも言えます。」これは「日々刻々と変わってゆくファッション性と、それとはまったく違う変わらぬ価値観の対比」のようにも思えます。これは木と時計というまったく違うものが実は単位こそ違うけれど、同じ時間という側面を持っていることの相性とも言えるかもしれませんね。
これらのブランディングにおけるコンセプト作りにぼの数ヵ月猛烈な時間を費やしました。それらがクリアであれば企業の姿勢もクリアになるわけです。
「3次元の新鮮な木目とその不思議な形は自然の豊かさに、人は結局自然に生かされているということを気づかせてくれる。そんな背景を持った木のものが腕時計を美しく見せるモノとして使われる。そういう姿勢を持った企業が腕時計のコーデネートをする」
これは利益だけを追求するのではなく、人の幸せの役に立ちたいという企業でなくては出来ない英断だったと思います。だから僕も精一杯頑張りたい。
まずは「木と時計の出会いの演出」 のウォッチスタンドの試作を始めました。置き型、スタンド型を5種類を3日間、頭から湯気が出そうになるほど考えました(^_^;)。現場の状況を確認すると、結局置き型は使えないことになり、
これはボツ。
市松に正方形を並び替える案、
これも残念ながらボツ。
ふたつのパーツを並び替えるこの案は
姿は大幅に変更に。
この案はこのまま採用。
横向きにしても面白い。
どの案も3個以上の試作を重ねました。例えば、
輪郭とか傾きとか木目の出方とかですね。
意外にも一番多く注文頂いたのが、
この形。手前が「バンブー」奥が「オバキュー」(^_^;)。後ろはおなじみ教授。(友情出演)
アフリカの材でアパという樹種なんですけど、10個程度は対応可能としての提案でしたが、びっくりの40個ということになり、これが困りました。底辺の直径は70~82ミリなんですけど、40個のご注文に対応するには住宅用松の柱材でしか作れない。これは承諾いただいたけど松は柔らかいので金属が擦れると傷が付きやすい。本当は出来ることなら広葉樹で作りたい。ただ、広葉樹の規格では一番厚くても60ミリほどですから7~80ミリが取れる広葉樹で手頃なお値段の材料ってまずないのです。何か手はないものかと考えるうちに5年ほど前に訪ねた製材所で積んであったマキ用の厚盤をふと思い出しました。
慌てて電話するとまだあって、譲ってもらえることに、、、。やってきたのは旭川。
ありました、12センチの厚盤!
一本55キロ平均を5本譲っていただいて、車が微妙に左に傾いてます(^_^;)。往復で一日が終わりました。
厚すぎてチェーンソーで切るしかなく。でもね、乾燥した広葉樹でこの厚みでしょう?チェーンソーのモーターが焼けてパーでした、、、(^_^;)。
右が今回のマキ材。左が広葉樹で手に入りうる一番厚い材で60ミリ厚。右は120ミリ厚!カバ材ですね、これは俗にメジロカバという白身の多いものかもしれませんね。
マキとして積んであったものなので歩留まりは決して良くなく、割れがひどいでしょう?
でも広葉樹で80ミリ角なんて取れる材料なんてなかなか手に入らないのです。そして削るとマキって言ったらバチが当たる美しさ。
ね?マグカップと比較するとその大きさがわかるでしょう?カップより大きな広葉樹の塊でこれだけの数が作業台に積まれる状況は独立以来、初めてのこと。
さて「オバキュー」が出来る工程をお見せしましょうか。
まず、86ミリ角で高さ100ミリのブロックを
バンドソーで4回切ります。右の面だけはアウトラインギリギリに切って、あとの3辺は大きめに切ります。
底面には6ミリのナットが仕込んであって、チャックに咥えたボルトに固定して、
シュルシュルと荒削り、
止めてみるとこんな。
今、アウトラインギリギリに切った面が消えかかっていますでしょう?これがピタっと消えた時点が一番正確な形状なわけです。
その工程は刃物を仕上げ用の刃物に持ち替えて、サラサラ、そろそろと削ります。この刃物は手バイトっていうのですが、こういう複雑なカーブをきれいに削るのはかなりの技術を要求されて、バイトにも工夫が要ります。
僕の工夫は、マキストーブで焼き戻しをして硬度を下げ、その後に特別な刃付けをします。今回は20個のオバキュウを精度よく揃えないといけないので、思い切って刃物に一工夫したわけです。
バンブーの工程は、
こんな形状に切り出したブロックを
これが荒削りの直後。このカーブをもっと滑らかにするために、
今度は自作のバイトの登場です。鋼の角棒に斜めに刃付けをしたバイトです。
左から大きなカーブ用の丸バイト、ふたつ目は小さなカーブ用の丸バイト。3本目は先ほどマキストーブで焼戻しをして90度の刃付けをした小さなカーブ用の仕上げバイトで一番右は自作の大きなカーブ用の仕上げバイトです。
オバキューの高さ違いを10個ずつで高い方は遊びに来た知り合い曰く「スナフキン」(笑)
バンブーも高さ違いが10個ずつの合計40個。これだけ削るのに1週間かかりました。こういう旋盤という機械で回転体を作る仕事は「木地屋さん」と呼ばれる専門職がいるくらい、それなりに難度が高い仕事なんです。でも自分で作らないとカーブの微妙なニュアンスとか、次の改善点とか見えてこないのでやっぱり自分で作りたい。
高さ違いの感じはこんなふう。
それから面白いのは一個が見せる向きによって随分印象が違うこと。この木裏の面は赤味の入り方がギザギザしてるでしょう?
180度回した木表の面は白くておとなしい。
そして90度向きを変えると柾目の面という具合に、一個の中に少なくとも3つの表情があること。
今度はオバキュー君
木口を見ると、木裏に中心の赤味が見えますね?こっちの面の見えは
赤味の入り方が面白く、底辺近くの目が正円に見える。
反対の木表の白太の方は木目がミューっと横に広がる。ムヒーっと笑っているみたい?(笑)
今度は赤味の比率が6割ほどの個体。なおかつ黄色味の強い縞模様が分かりますか?この縞模様の出方が面白い。
ほらね、スペースシャトルみたいな線を描いているでしょう?
このバンブーは白い縞模様の出方が面白いしなんとも言えない赤味の色。
スナフキンの顔部分はカーブかきついので場所によって反射率の違いがはっきりしているので目の前で動かすとキラキラの宝石みたいです。
こうして見ると個体差がはっきりわかりますね?
時計の個性と木の個体差の組み合わせ、しかも一個にも向きによって変化があるので、お店の方も見る側にも楽しい「出会いの演出」ができるはずです。
飾り付けができたらどんな状況になるのかワクワクしますね。
たった一個のペンスタンドから始まった奇跡のプロジェクト。何百万の仕事じゃなくても、僕にとっては「夢」であった、商業空間への関わり。まさに一期一会の出会いに感謝しています。
次の記事は「そのー2」で、残りのウォッチスタンドと一輪挿しとフォトフレームにペンスタンドの予定です。
オンタイムプロジェクトー2 「ウォッチスタンドーその2とフォトフレーム、ペンスタンド、一輪挿しなど」 [オンタイムさんのお仕事]
芯持ち教授、なんだか頬が赤らんでないかい?
「え?ええ、なんだか女の子に囲まれているような、、、。どうしてでしょう?
学長、このウォッチスタンドのコンセプトはどんな感じなんですか?」
「Moon」でしょう? 月のうさぎのお耳がヒューンでぴよぴよ~って飛んでく感じ?
「は!?」
だってそうなんだよ、思わずナデナデしたくなるようなビミョーなカーブの物を作りたかったんだよねぇ、、、。
それでさぁ、この形を考えて材料を買い出しに行ったらね、もうイメージに最高!って材を見つけちゃってさぁ。
この年輪の傾きと色のコントラストがもう、ガッツポーズ!って感じだったんだよ!
この色の濃いところの入り方といいさぁ~。
「一目惚れだったんですね?」
うん。作り方見る?
「ええ」
まず上から見た三日月の形にバンドソーで切り出して、
切り捨てた部分を一旦テープを貼って戻して、横に倒して、今度は正面から見たえぐりのカーブを切り出すんだよ。
これで2方向からカーブに切ったでしょう?生まれるよ~
「おおー!!!」
「なんとも言えないカーブですよねぇ、、、」
「そうか、だから時計がリラックスしているように見えるんですね?」
さすが教授、いい感性してるねぇ。
「うぉー!これはなんですか!?これもウォッチスタンドですか!?」
うん、「ニョキ」ってタイトルでさ。春だしね、チューリップの目がニョキって出たような感じ?
「う~ん、モノ作りの発想ってそういうもんなんですかね?」
そうそう、そんなもんさ。
「うほー!なんという斬新な!」
でしょでしょ。先端のフックの部分、ちっさいんだぞ~。
厚さ1.6ミリ、幅3ミリ、長さ17ミリってところかな。右の四角の角はサンドペーパーでシコシコって丸めてさ。
でね、ベルトが通ってるところがさ、
時計に合わせて3箇所で止められるんだけど、このパーツがね、
上の板の木口を見ると3層になっているのが解るかな?手前に約0.9ミリ厚の板があるでしょう?この目の向きは手前から横、縦、横と並んでいるだろう?これをこの向きのまま接着するとウx-ルナットの合板になる。
これを一枚の無垢で作ってしまうと溝の端のところが弱くて折れちゃうんだよ。でもこうして合板にすれば指では折れないくらい丈夫なんだなぁ。
「ほー、学長、ただの変態じゃないですね!?」
あのね、、、
さて「バンブー」
「オバキュー」
「Moon」
「ニョキ」の4種類でウォッチスタンドが出揃って、後は時計のデザイナーの説明を入れるフレームだよ。
2Lサイズのフレーム。材料はイタヤカエデの縮杢。クセのないデザインで木味だけで飾ってあげる感じかな?このフレーム垂直に立っているんだよ。しかも縦横自在というご要望でね。ちょっと苦労したなぁ。
裏にね、木口にしゃくりのある正方形のベニアが付いていて、後ろのブロックのスリットに縦横どっちの方向にもスライドしてはまる仕組みになっているんだ。
「やりますね~」
これなんだかわかるかな?
「いえ、まったく」
上から見るとこんな。
「ひょー、ひそかに目がくらむような木目ですね」
修理工房の待合スペースはデスク周りの雰囲気作りをするんだよ。で、なんとな~くイメージしているのは木目も好きな時計職人さんのデスクでね。だからこれは
ドライバー置き。
「ははぁ!」
で今度はちっちゃいパーツ入れ
ほんとはガラスのフタを置くんだけどね。
昔作ったレリーフを改造したんだよ。
あとは販売用の小物のペンスタンド
2枚の板が中央で貼り合わせてあって、左の面は木の中心側だから「木裏」と言って、右の面が木の表側なので「木表」
こっちが「木裏」面で、
今度は「木表」面。この木目の違いと補強のウォールナットの段々がテーマでなおかつ注文してくれた人の愛称からタイトルが「Dan」。
「底板はペン先に優しいコルク貼りに短いペンが入り込まないように仕切り棒付きってね。」
良くできました。
(ペンスタンドの詳しい製作工程はこちら)
http://seisakunohibi.blog.so-net.ne.jp/archive/c2301946686-1
それからフォトフレーム。
イタヤカエデの杢なんだけど、今まで何千枚のイタヤを見てきたけど、こんな杢は初めてなんだよ。玉目の変わり種なんだけど
こんな杢に対する呼称がないんだよね、、、。
「ほんとですね、泡が吹いているような不思議な杢ですねぇ」
「えーーー!!!?これなんですか?」
カリンの瘤なんだけどね。
初めて見る粒の細かさでねぇ。あちこちに入皮があって歩留まりが悪くて大変だったんだよ、これ。
「いやーこれ半端じゃないですよ!」
うん。
(特注のフォトフレームの制作記事はこちら)
http://seisakunohibi.blog.so-net.ne.jp/archive/c2302288721-1
「ドひゃー!!!凄い面々じゃないですか!?」
ここまでの栃の縮杢は経験がないね。最高記録じゃないかな?こっちが板目の面で次が柾目の面。
「あわわわわわ、、、、、確かに、ここまでのものを見るのは初めてです!」
これはね、いわくつきの材でね。2004年の台風がひどかった時にH大のキャンパスで倒れたニレの木でね。市民に配布した時にもらって来たんだよ。樹齢100年以上っていう話だったから、ということはH大のキャンパスがまだ原野だった頃から生きて来た木ってことなんだ。ということは札幌の歴史の証人ってことなんだわね。
「こっちは柾目の面。どの面にもそれぞれに表情がありますねぇ、、、。」
そう、それがこの一輪挿し「凛」のいいところでしょう?
「ええ」
この世でおそらくもっとも赤い木、ブラッドウッド。
「これねぇ、着色じゃなくて生の木の色だってみんな信じないんですよね。」
「初めての人はびっくりするよね」
今度はハリエンジュ。札幌では街路樹のニセアカシアと言った方が馴染みがあるけど、正式名称はハリエンジュでその瘤。
「学長、これどうやって手に入れたんですか?」
これねぇ、2004年の台風で倒れた街路樹だったんだけど、これも市民に配布した時のものでね。その配布所であまりの太さと重さで誰も持って行けずに最後まで残っていたんだよ。でもそれはたくさん瘤が付いていてね。友人がそれを見つけて電話してきたんだわね。で行って大きくてビビっちゃったんだけど。そこにいた人が手伝ってくれてね。6人でやっとの思いで積んでこれたんだよ。
「6人でやっとですか!?」
そう、しばらく腰が痛かったなぁ、、、、。
最後は、
「ギョー!!!」
マーテルバール=月桂樹の瘤。超ー超ー超ー珍品!!!突き板(ベニヤに貼り付ける薄皮)にするには小さくて、小物様に製材されたものだね。たまたま手に入ってたった一個だけ取れたんだ。たぶん二度と作る機会はない気がするなぁ。
一輪挿し「凛」の詳しい製作工程はこちら)
http://seisakunohibi.blog.so-net.ne.jp/archive/c2302537687-1
これで、ウォッチスタンドと待合の作品の全てだよ。
「なるほど、小さなスペースにありったけ濃密な展示にしたかったんですね?」
そうだね。
「いやー、しかし銘木屋さんでもなかなか見られないものがこうして出揃うとは凄すぎですね!?興奮し過ぎてちょっと疲れました。」
あはは。そうかい?。腕時計屋さんの店舗でしょう?金属とガラスという硬い素材が主体の展示なわけだよ。そこに柔らかい素材でしかもゆらぎのパターンを持った素材でしょう?その対比でどっちもが新鮮に見える効果が期待できるんだよね。しかもその内容が半端じゃないとなれば、その店舗の評価は高まるはずでしょう?そういうお役に立てればってことだよね。
「なるほど!」
さて、次はいよいよレリーフの連載です。お楽しみに!
今回製作したフォトフレーム、ペンスタンド、一輪挿しを数点ショップにアップしました。
ご興味あればご覧下さい。
http://seisakunohibi.blog.so-net.ne.jp/2012-07-11
オンタイムプロジェクトー3 「木のレリーフ」 [オンタイムさんのお仕事]
レリーフの記事は連載するつもりでしたが、訳あってひとつにまとめます。写真が90枚近くになる長編になりますので、お時間のない方はどうぞスルーして下さい。
レリーフは、修理工房を仕切るガラス面に両面テープで接着ということになりました。最初の会議では直径20センチほどのギヤーを5個程度の構成という方向性でしたが、どうデザインしてもギヤーという特徴のある形にうまく木目を表現しきれないイメージが払拭できず、ならばと時計のデザインに変更したのでした。
最初は時計の基本構造を勉強したり、ギヤーの種類を調べたりして、ひと月以上の間に20通りは考えたかと思います。時計と決めてからは早かったですけどね。腕時計店に時計のレリーフですから素直ですし、もしも他の店舗にもとなればバリエーションも出しやすいという考えもありました。
レリーフは95センチ角に収まる範囲ですから大きなものではなく、むしろ小さいと言えます。というのは収まりのいいパーツの大きさを決めてゆくと一つのパーツは5センチ角前後になり、その中に感動させうる木目を表現するのはかなり厳しい仕事になるからです。
木目の要素の構成はこんなふうに考えました。1~4は四方に広がる木目。楕円で囲まれた3っつのグループは上から、ブックマッチ(対象の木目)、繰り返しの木目、円形の彫り込みのバリエーション。針と中心は揺れる木目という構成です。
さて国本、入魂のレリーフ製作がスタートしました!
ワンバイ材です。断面寸法18×85ミリ、長さ1,8メートル、これで200円前後。安いでしょう?でもこれを選ぶ理由は安さではないのです。
上がツーバイ材で厚みは倍の38ミリありますが、年輪の幅を見ると、ワンバイ材の方が圧倒的に細かい。おそらくワンバイ材に振り分けられる丸太は成長の遅かった細い丸太がほとんどなんだと思います。今回のレリーフは5センチ角前後の中に感動の木目を引き出さなくてはいけないので、このワンバイ材の他の選択肢は考えられないのです。
ホームセンターに6回通い、毎回150枚ほどをひっくり返して15枚ほどを選んできたので60枚に1枚の確立でしか使える木目には出会えないことになります。どれも選びに選んだ、一癖も二癖もある木目。
その曲者を6枚切り出しました。
えぐりの線を引き、
バンドソーで挽いた結果は、
狙い通りの木目です。
左上と右下は木目が微妙にずれているので使えません。選んだ4枚を切って並べた結果は、
絶妙な美しさ!いい感じです。
今度は両側に色の濃い帯がある個体、
ありゃりゃ、もっと木目がV字になって欲しかったのですが、これは使えません。
今度は年輪の半径がもっと大きな個体、これならもっとV字になってくれるでしょう。
OK
ほらね、先のものと比べると稜線での木目の切り返しの角度が違うでしょう?左を切り出して並べると、
ね?蜘蛛の巣みたいな、不思議なパターンになります。
今度は星形を目指しますよ~。
まずまずですが、V字の角度がきつすぎるのでサンダーでもう少し角度が開くように削り直してから並べました。
OKです!
中央の木目がはっきりとした個体です。ここから楕円の木目を引き出します。
これもやっぱり6個中4個を選んで、
こうなりました。
ここまでの「四方に広がる木目」は4個で見ごたえがあればいいのですから、まだ難度は低い。でもここから先は「5センチ角ひとつでの感動」ですから極端に難しくなります、、、。ちょっと不安がよぎります、、、。
中央にアテと言って、細胞の壁が厚く、色の濃い部分のある個体です。
狙い通りのいい木目が出ましたが、さらにひと手間、この平面を斜めに落として、
ね?こうすれば平面から彫り込みにかけての木目の流れが面白い。これは合格。
今度は稜線がうねうねしたものですが、まだ80点です。
まだ80点。もっと「うねり」がはっきりと解るものにしたい、、、。これに適した個体はないかとあれこれ材料を探すと、
ありましたよ、超くせ者!!!ここからふたつ削り出した結果は、
やっと納得できました。
さて今度は「円形の彫り込みのバリエーション」です。
半球型の彫り込みが色の濃い縞を馬蹄形にさせる予定ですが、さて。
縞はいいけど他の部分の木目がぼやけていてぱっとしないのでもうひとつ。
これならどうでしょう?
意外と短調でした(^_^;)。では同じ材でも半球型をやめてうねりのある彫り込みにしてみると、
これならいい!しかもおっさん顔発見!
ワッハッハ!張り詰めたところで息抜きになりました。
次は花びら型と雪だるまのような。上の型を使って正確な位置に彫り込みを入れた結果は、
これは一発で決まりました。
これはいまイチ。
これもつまらない、、、
これはバッチリだけど、木質の柔らかいところが欠けやすいので、同じ材で彫り込みの速度を限界一杯に遅くして、もう一度。
焦げは出ましたけど、サンディングでなんとか落とせる範囲。
綺麗に仕上がりました。
これは一個で決められました。
以上が「円形の彫り込みのバリエーション」です。
次のグループは「ブックマッチ(対象形)のバリエーション」です。
17ミリ厚の材の両側に6ミリの板を貼り合わせて中央でいろんな切り分け方をします。これは単純にS字で、その結果は、
大きなうねり。一個でも面白みがあるものが対象形になることでさらに見ごたえが出ますね。5センチ角で感動させるには知識も技術も総動員です。
もうひと波。
OK
次はまっすぐ行って急にうねる。だから木目も急にうねる。
5センチ角ってこんな小ささですよ。
バンドソーや彫り込んだ直後はぼそぼそですから、ひとつひとつこうしてチマチマと仕上げています。
もうひとつの形がなかなか決まらず、泥沼に陥りました、、、。
S字でさらに斜め、というのが面白いとやっと解ったけれど、イメージ通りの木目が出るまでにさらに5個、、、
もう1個でやっと納得。
いいねぇ!
今度は材の長さを18ミリほどに切って、それぞれを山形に削り出す。
最高~!大きく欠けた一個ははねて、三つずつを対象に並べる。
これを正確に接着して切り落とせば、
手のひらの宇宙だね?
「ブックマッチのバリエーション」が出揃いました。
今度は「繰り返し模様のバリエーション」ですよ。
波波に切れてます。パカっと開くと、
ウシシの木目!
ピンがボケましたけど、中央が元素材で左はかまぼこ型で右を山形。真ん中の濃い縞模様が横一列になってますけど、
断面によってその出方が変わるのがわかりますか?
これは約10ミリピッチの小さな波。
これはV字のしゃくりですが、左下の4個目でやっと納得。
これで「繰り返しのバリエーション」が終了。針と中心以外は全部出来ました。ここまでで10日かかっています。一個を得るのに3個作って選んでいるのですから、すでに100個は作ってますね、、、。
さて残すは針と中心!
針に使う材は色味の違うものを使います。この2枚の板は同じパイン材なのですが、左は100度以下の通常の乾燥温度で右は「サーモウッド」と言って、200度を超える乾燥温度なのです。だから所謂キツネ色に焦げているわけです。「湿気を吸わず腐れにも強い」という特徴があるんですが、全体の色味と年輪のコントラストや塗上がりの良さにも特徴があります。
ただ材質がもろい性質があって、角が欠けやすくこういう加工は無理でした。
こういう加工なら大丈夫。
断面で年輪が斜めのtころを使って、
波々、
これはいまイチ。
ならば短く切って、えぐりと山形に、
これを一個飛びに反転させると、
ボケちゃいましたけど、目標の「うねる木目」になります。
中心の円盤の木目が左手前に決まるまで、12個作り直し、、、(^_^;)
真ん中にたぬきがいます(笑)
さて、長針は20ミリ巾、短針は30ミリ巾です。できかけのパーツを並べてみると短針は同じサーモウッドの濃さですと重くみえて具合が悪く、結局短針はもう少し薄い色身のキハダで作り直し、中心も「たぬきさん」は遠慮いただいてワンバイ材で作り直すことにしました。
あらら、削って納得の木目なんですけど、たぬきさんに加えて大きなクマさんも出てきましたか?
キハダ材の年輪の中心をかすめたような部分です。ここなら小さくえぐってもいい木目が出そうです。
やった!予想以上の木目です!
全てのパーツが出揃いました!!!
下の「うねうね」に4番の四方に広がる木目、上の5個は「円形の彫り込み」
上の5個は繰り返しのバリエーション。
三日月、星形にブックマッチのバリエーションです。
短針に
長針。
今回はガラスの表から両面テープで固定するので裏から見るとテープが丸見えです。それではみっともないということで工房側も最低限の化粧をすることになりました。そこでシナ材とウォールナットの市松でリズム良く。
断面が綺麗なようにシナの1.6ミリの曲げベニアを2枚プレスして、ウォールナットのパーツはさらにその表面に0.2ミリの突き板を貼ってます。
細部はこんな感じですね。
2週間、材料と形の最適の組み合わせを夢中になって考える日々でした。
たった50パーツしかないこのレリーフは、
100個の犠牲によってやっと出来上がりました。3個に1個しか採用にならなかったんですね。妥協はゼロではないけれど、極めて高い妥協点で納得の作品にできると確信しています。
ここまでやればもちろん採算割れ、でもそれでいい。大きな夢だった商業空間で初めてこの世界を見せることができるチャンスですし、この作品を見て幸せだと思ってくれる人がきっといるはずですからね。
何かに突き動かされ、模索し続けて来て、次の世代のために残すべき次元に自分が立っていることに気がつきました。僕個人のためだけではなく、社会のなんらかの利益のために僕がなすべきことがある、ということに。
チャンスと理解を示して下さったオンタイムの関係者の皆さんに、心の底から、ありがとうございます!
6月13~14日に取り付けに行きます。完成の写真がうまく撮れましたら、またアップします。
長い記事にお付き合いいただきありがとうございました。
オンタイム プロジェクトー完 [オンタイムさんのお仕事]
横浜みなとみらい、mark is のmove by ontime 。13日の状態です。18日の仮オープンに向けての準備中。右奥のこげ茶の空間がレリーフの付く場所で修理工房です。
3時間ほどで順調に取り付け終わりました!まだ全部の照明が点いていないのでなかなかきれいに撮れませんでした。
このレリーフのタイトルは「時環」というタイトルにしました。時と環境が創り出した無限の世界に自然の、地球の豊かさを感じてもらえたらという想いからです。もちろん時計と年輪が時間という共通項を持っているからでもあります。
レリーフをガラスに付けるのは初めてのことで、耐用年数に若干の不安がありますが、まぁ大丈夫でしょう。なかなかの見えではないでしょうか?
ガラスと木でまったく質感が違うことが新鮮に見えるのでしょうね。
工房側は2色の市松。手間いらずの一工夫でしたが十分な見えです。
修理工房の待合スペースには一輪挿し、ペンスタンド、ドライバー置き、パーツ入れなどを飾っていただけます。(まだセッティングは完了してません)
お店の中央のデザイナーコーナー(?)にkuniのウォッチスタンドが。
オバキューにニョキとフォトフレーム。うんうんいい感じです。
同業の人はこんなスタンドにびっくりするでしょうね。
さて、二日目はスタッフと関係者の方々に1時間ほど作品の背景や解説をしました。このプロジェクトの最後の締めくくりでしたので何日も前から画像とお話する内容を 検討してあったのですけど、当日は手違いでパソコンがない、というどんでん返し!(笑)その場で内容を頭の中で組み立てなおし、しゃべりまくりました。自分でもびっくりするほどにね。これはね、聞いてくれた皆さんの反応に大いに助けられたんですね。ノートにメモをする方がほとんどで、質問も熱心にしてくれましたしね。
最後の〆は感動でもういっぱいいっぱい、、、
半年に渡る、夢のプロジェクトでした。その期間、もちろん他にも仕事はありましたけど、それ以外のすべての気力をこのプロジェクトに捧げました。終わってしまった脱力感からこの記事もほんとはもっと書くべきことがあるはずなのですが、今の僕には無理のようです。
オンタイムの皆さん、本当にありがとうございました!このお店は必ず成功すると信じています!
Mark is は6月21日に正式オープンしました。
前記事のコメレス書きかけで消えちゃいました、すみません、、、。