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ナラ無垢材、蟻組みの文机 [ナラ無垢材の文机(蟻組みによる)]

 

 2010年7月、いろいろ凹むことが多い中、嬉しい知らせが届きました。ソネブロさんのお一人、Jさんから、ご主人が文机を注文したい、とのメールが来たのです!ご主人は書家でいらして、僕のブログを見ていて下さり、頼んでみたいと思って下さった、とのことでした。

 さっそくスケッチをして後日、お伺いすると、ご夫婦で迎えて下さり、そのお人柄がまたステキで、、、。帰途は実に爽やかな気分で戻る事ができたのでした。

 その時お見せしたスケッチがこれ、

スケッチ.jpg

 上からリビングテーブル風、ちょっとチャイニーズ風で下はジャパニーズ(笑)。ご希望はナラ材でとにかくシンプル。サイズは80×120センチで高さ29センチ。これだけ。「シンプル」にどんな「深さ」を盛り込めるかが、考えどころですね、まあいつものことですけど、、、。

 で、即座にご主人が選ばれたのは、下のジャパニーズ!来ましたよ~。これ、一番大変でかつやりがいがあるデザインです。なんと言ってもこの組み手。総蟻組み!

 価格は20万ですね。

 

 さあ!材料を選びに行きましょう。

文机の工程ー001.jpg

 場所はkuniの昔の大家さんだった、渡辺木材産業さん。手前の低い山がナラです。あれこれとひっくり返すうちに、ハッとする材を見つけちゃったんです!それがこれ。

 文机の工程ー003.jpg

 間違いなく、一本の丸太の一部。製材の山って、100枚前後が丸太の別には関係なく、混ざって積んであるので、その中から同じ丸太で揃いのモノを見つけ出すのは大変なことなんです。

 日程に余裕があるので、まず荒削りをして、2階で2週間ほど乾燥させることにします。

 削った後、並べて木目具合を確認します。

文机の工程ー006.jpg

 完璧!ナラの超柾目!4枚揃い!これはいい物が作れますよ!「シンプル」の中に盛り込む「深さ」のひとつの要素はこれで間違いないです。

 ただし!

 この板、良く見て下さいね。

文机の工程ー007.jpg

 逆光で見ると、色の濃い部分がムラになって見えますでしょう?この部分がすべて、逆目!一枚の板の中に順目と逆目が複雑に入り混じっているんです。

 一年以上前なら、この手の材料は削る自信がなくて、選べなかったでしょう。というのは、こういう硬い材でどっちから削っても逆目の材の「欠け、掘れ」をほぼ完全に止める術をつい最近まで解明出来ていなかったんです。

文机の工程ー008.jpg

 機械で削った直後はこんなボロボロ。すごい「掘れ」でしょう!?これ、間違いなく削りで苦労する真性の曲者、じゃじゃ馬です。でもね、これがちゃんと仕上がると、それは素直な個体には絶対に出せないキラキラの個性を発揮するはずなんです!

 「シンプル」の中に盛り込みたい「深さ」の第一の要素なのですね。

文机の工程ー009.jpg

 チェーンブロックで2階に上げて、しばしの乾燥です。はてさて今の自分のコンディションでどこまで出来るのか?ちょっと不安な出発ですが、、、。

文机の工程ー010.jpg

 


 2週間後、2階から材料を下ろしました。このところの強烈な暑さで強制的に乾燥しているようで、削った当初と比べると、やはり狂いが出ています。無垢材の作品はこうして乾燥の時間が取れるほど、安心して作業を進めることが出来ます。普段はなかなかそんなにうまくはゆきませんけどね。

 改めて狂いを取って削った結果をよく見てみましょう。

文机の工程ー011.jpg

 導管の向きをよく観察すると繊維の向きはチョークの線のようにあちこちに向いてます。どっちからかけても逆目。機械での切削は逆目の掘れを止める限界があって、それ以上を望むなら、もう手鉋しかないのです。気合を入れて、僕の極限の研ぎで挑みます。

文机の工程ー012.jpg

 この時の鉋くずの厚みをマイクロメーターで計ってみると18ミクロンでした。ナラを相手にこんな鉋くずを出すのは驚異の世界なんですよ。一年前までこれは出来ない事だったんです。これは、ある刃物鍛冶さんと熱い熱いやり取りの中で発見した切削の新しい理論に基づいているのですけど、どれほどこのことを解説したいか、、、。でもね、この世界は、かなりの倍率での刃先の鮮明な写真と実験データを取らないと証明できないのですね、、、。まだ完全解明できていない、推論の段階なのです。いつかこれを理論的に解明したいけど、ライフワークのひとつですね。

 ですので、せめて、この研ぎに使った、天然の仕上げ砥石をお見せしましょうか?あんまり機会がないでしょうから。

天然の仕上げ砥石.jpg

 これ全部、京都で取れる砥石です。層によって呼び名が違います。左から、戸前、内曇(日本刀の研ぎ用)、巣板(大工道具用)、からす(カミソリ用)。左と右の石はキメが細かく中央の2丁は一段荒い。ところが、今回のように逆目であったり、硬い材を削る時は、むしろこの荒めの砥石で仕上げる方が調子がいいのです。これには深い深い訳があるんですけど、これを解説するのはとてつもない労力を要するので、いつかまた別な機会にしましょうね。

右からふたつ目の巣板という石の細部です。

P8305821.jpg

 通称「蓮華」なんて粋な呼ばれ方もします。

 さて、手鉋で逆目を完全に止めて削った結果は、

文机の工程ー013.jpg

 逆光の光を反射するほど。ここまで出来るようになったおかげで、今回のようなじゃじゃ馬の材も選択肢に入れられるようになったのですね~。

 kuni、まだ進歩してます。

文机の工程ー014.jpg

 バリバリの髄線、職人はこれを「虎斑」(とらふ)なんて言ったりします。(帝国ホテルの設計で有名だった、フランクロイドライトはこの「虎斑」が大好きで彼の設計した家具にはさかんに使われています。)

 

 この面を基準として自動送り鉋盤で厚みを決めてやっと材料の段取りが出来ました。

文机の工程ー015.jpg

 接ぎ口を作って、

文机の工程ー016.jpg

 仮締め。かなりの精度です!

文机の工程ー017.jpg

 左右に均等に色の濃い部分を配置できました。こういうところが、同じ丸太から製材された、揃いの板を使えることの、すばらしい効果なんです!

 さあ、接着です。

文机の工程ー018.jpg

 水浸しでジャブジャブ洗って、、、。3時間後。

文机の工程ー019.jpg

 接ぎ口の誤差を触ってみると、0,1ミリないですよ!すご!

ここまでの精度で接ぎが出来たのは、

                最高記録かも!?

 さて、ここまではなかなかいい感じですけど、この後の組み手が、、、。10数年ぶりですからねー、、、。

 え!?そうなのって!?  そうなんです。

 うーーーーん。 

       続く!

 


蟻組みの工程ー001.jpg

 接ぎが終わり、もう一度ある程度の平面に鉋がけをし終わって、三つの部品に切り分けました。足が二枚に天板です。

 さぁて、皆さんこんな工程、生まれて初めて見るんじゃないでしょうか!?

蟻組みの工程ー002.jpg

 蟻組みって、台形の凹凸が組み合わさって物理的に抜けにくい組み手をいいます。鉛筆で墨をしたら、

蟻組みの工程ー003.jpg

 鋸を使って、ぎりぎりまでとことん攻めます。ここからの仕上げ代は0.1ミリほどでしょうか?

蟻組みの工程ー004.jpg

 それをノミで仕上げてゆきます。

蟻組みの工程ー005.jpg

 そうして出来た足の組み手を、正確な位置に仮固定して、天板側に小刀で線を引いてゆきます。ここではもう鉛筆の線では太くてダメ。

 寄って見ると、こんな感じ、

蟻組みの工程ー006.jpg

 そして、この線を頼りに、今度は治具を使って手鋸で挽いてゆきます。

蟻組みの工程ー007.jpg

 ほんとは、機械を使いたいところですが、80センチ×120センチの天板を機械の上に立てて加工するのは危ないので、この場合は手鋸にしました。

蟻組みの工程ー008.jpg

 この後、ハンドルーターという機械で、蟻組みの工程ー009.jpg

 またギリギリまで攻めて、

蟻組みの工程ー010.jpg

 入角をノミで仕上げて、オス、メスの組み手がおおよそ出来てくるわけです。

蟻組みの工程ー011.jpg

 こんな風に加工してるんですけど、こんなデッカイ板の端っこに0.1ミリ単位の加工をしてるって、自分でも笑っちゃいますね。

 さて、少しずつ組んでみて、

蟻組みの工程ー012.jpg

 きついところをノミで微調整し、また組んでみて、

蟻組みの工程ー013.jpg

 また、ノミで削りを何度も繰り返します。

蟻組みの工程ー014.jpg

 そうして、やっと仮組みまで来ましたよ!

蟻組みの工程ー015.jpg

 うーーーん、でも、精度がイマイチだなぁ、、、。

 しょうがないね、、、。十数年ぶりだもんね、、、。あの手、この手で妥協するしかないでしょう。

 これが、今のkuniのベストなんだから、、、。

 

 えいや!組み立てるぞ~!!!

蟻組みの工程ー016.jpg

 横方向にクランプで締めながら、最終的には、プレスも使って、

蟻組みの工程ー017.jpg

 縦方向にも圧力を。

 ここ、写真2枚しか撮れなかったけど、ほんとは、

ヒョエー 

うりゃー 

ゼーハーゼーハ なんですけどね、、、。忙しくって写真撮れなかったんです(笑)。

 

 どうにか、組み立てまで来ました!あとは、仕上げ削りと塗りですね!

 

 山は越しました

      よ!!!

 

 もうちょい続きます。


 さあ!完成しますよ!

 出稼ぎに行っている間に組み立て終わった文机は接着剤の水分も飛んで、ほど良く乾燥していました。

 特に組み手の部分は互い違いに木口が出ていて、木がやせるとその分が段差となるので、なるべく乾燥させてから仕上げたいのです。これに関してだけは、キビシイ残暑が味方してくれていますね。0.1ミリほどの段差が出来ていました。

文机の鉋削りー2.jpg

 また、20ミクロン前後の鉋くずを出しながら、最後の削りです。鉋で削る工程は今回で3回目ですね!

文机の鉋削りー1.jpg

 とにかく逆目で掘れが出ないように、細心の削りです。こうして限界まで鉋で削るのには深い訳があるのです。今回のようにどっちから削っても逆目で掘れが出やすい材を「多少のことは、、、」と妥協してしまうと、荒いサンドペーパーで掘れたところまで落とさなくてはいけません。そうすると、どうしても平面度が落ちてしまって、なんともなしにだらしのない面になってしまうのです。それを妥協せずに鉋で限界まで削れば、余計にペーパーを当てる必要がなく、その分平面度の高いすっきりとした仕上がりになるのです。

 「国本の作るものは何か違う」っていう印象を持ってもらえるのは、こうしたわずかな工程でひと手間余計にかけることでの完成度の高さがもたらすことでしょう。

 完成度が低ければ、どうしても見る人はそこに目がいってしまい、肝心の木味を見る目が曇ってしまいます。完成度が高ければ、形も細部も安心してみる事が出来て、木味はストレートに伝わることでしょう。

 僕が一番見てほしいのはそこなのです。デザインでも技術でもない、木そのものの魅力をとことん見せたい。その言葉は木の言葉であり、自然、地球の豊かさを語っているはずなんです。だから僕は胸をはってこうして製作工程をお話できるんです。言いたいのは自分のことではないから、地球の豊かさについて、ですもの。だから皆さんもこうして、素直に面白がったり、まったく違うジャンルの人でも感動したりしてくれるものと、確信しています。

文机のサンダー仕上げ.jpg

 鉋がけがやっと終わって、サンドペーパーを当ててゆきます。やっぱり限界まで削ったのでペーパーがけがラク!さらりと仕上がり、焼印を!

文机の裏に焼印.jpg

 今回はジャパニーズテイストなので、漢字の焼印に。

 そして、とうとう塗りに入りました。

文机のウレタン塗装.jpg 

 書に使うので、耐水性のある塗装にしなくてはいけませんから、今回はウレタンのガン吹き。

文机のウレタン塗装ー研磨.jpg

 塗りはおおよそ6工程で最後に磨きを入れて、ウレタン反応させるタイプのワックスをかけて完成です。

文机のウレタンにワックス.jpg

 ほら、艶が出てきましたでしょう!?

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ナラ柾、蟻組みの文机-1.jpg

 完成ー!!!

 不規則なスジ状に色の濃い部分がすべて逆目の部分。

 第一の見所、蟻組みの細部は、

ナラ柾、蟻組みの文机-2.jpg

 ウシシの美しさでしょう!?

 

 そして、第二の見所、ナラの本柾でこそ、見ることができる、髄線=虎斑模様のバリエーションが全面に広がっています。

 これぞナラ!!!

ナラ柾、蟻組みの文机-4.jpg

 虎、虎、虎

ナラ柾、蟻組みの文机-5.jpg

 下、左から3分の1から上、右から3分の1を結ぶのが接ぎ口で、それを中心に木目は対象(ブックマッチ)なので、よく見ると、髄線の斜め具合が左右対称でしょう?

ナラ柾、蟻組みの文机-6.jpg

 光の具合ではこんな風に髄線が浮いてキラキラしてるようにも見えます!

 

 

 ところでね、

ナラ柾、蟻組みの文机-3.jpg

 最近知り合って、とても仲の良くなったお茶室も出来る、腕のいい大工さんがいるんですけど、彼は、この机を見て「もっと面白い組み手でも良かったんじゃないの」って言ったんです。

 確かに、組み手の世界には皆さんびっくりするほど、もっともっと、美しく、難しい、組み手のバリエーションがあるんですけど、今回はいろんな意味でこれで十分と思ってるんです。

 たぶん、今回の蟻組みでさえ、見るのは初めてという方が多いでしょう?それと、もっと手間のかかる組み手になると、作品の意味が木味よりも技術のウェイトが高くなってしまうと思うのですよね、、、。だから、今はこれで十分。その大工さんとの会話はちょっと面白かったのです。それぞれの立ち位置があるなぁと思えて。

 

 さて、最後に今回のベストショットを。

ナラ柾、蟻組みの文机-7.jpg

 天板の巾は80センチで4枚接ぎです。その4枚をどう接ぐかによって、この天板全体がかもし出す雰囲気はずいぶん変わります。

 今回は色の濃い部分を2箇所に配置する接ぎ方にしました。それによって2本の木立、あるいは滝のような、逆から見れば、2本の炎のようにも、見えたりします。

 

 「とにかくシンプル」でありながら、どれだけの豊かさを封じ込めたか?もう十分伝わりましたかね?

 

 難しかったけど、楽しい製作でした!

 

 Jさんご夫妻

   ありがとうございました!

 

 


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