いのちの色、いのちのカタチ、、、木の一輪挿し「凛」 [一輪挿し「凛」]
明けましておめでとうございます!あいかわらず不定期な更新になりそうで、訪問もゆっくりできるのはここ数日だけのような気がします。そんなkuniでもよろしければ、今年もお付き合い下さい。
11月から忙しくしていますが、残念ながら経営的には状況は好転してはいません。いろいろありましてね、、、。詳しくはいつか落ち着いた時にでも。
さて今日の記事は長いです。お時間のない方は別の機会にされた方がいいかもしれません。(^_^;)。では
始まり、始まり、、、。
一昨年の秋のこと、お隣さんのマキ置き場でふと目にとまったのは朽ちかけた白樺の丸太でした。
、 、 、 、
「何みてんだよ」
「ん!?いいやられ具合だなぁと思ってさ」
「あ”~?人が菌に侵されかけてんのを、いいやられ具合って、ふざけんじゃねぇぞ!」
「君さ、うちの工房に来ない?」
「何の用があんだよ?おれはここで土に帰るか、マキになるかの運命なんだよ。余計な世話すんなよ」
「まぁ、まぁ、、、」
「ははは、ほんとにちょうどいい侵され具合かも、、、」
「なんだよ、さっきから、訳わかんねーぜ」
「切ってみようねぇ~」
「勝手なことすんじゃねーよ!」
「うひゃー!!!大当たりー!!!」
「おい!勝手に切りやがって、おまけに喜んでるし、あんた変態か!?」
「あのね、木に腐朽菌が入り込んで色が変わったりしたものを朽木杢って言い方があるんだよ。完全にコルク質になってしまっては形を保てないけどね、その一歩手前のものは健全な木には有り得ない色やパターンがあるので知る人ぞ知る世界なんだよ。正倉院の宝物にも朽木杢を使った小箱があるんだよ。乾かしてしまえば菌は仮死状態になってそれ以上腐朽が進むことはないので、よほど湿度の高い環境でない限りは木材として使えるのさ。」
「何わけのわかんないこと言ってんだよ。」
「まぁまぁ、一年くらいしたら解るさ、」
というわけで、この白樺はこの後、梁の上に上げられて乾かされることになったのでした。
さて、このブログでは初めての登場する一輪挿し、「凛」といいます。木口の形は
こんな風に3次曲面に、そして底の面も
同じカーブの曲面になっています。
ふくらんだ四角の断面が微妙にねじれている形によって、きりりとしていながら優しい形を作ろうとしたものです。それは自分自身がそうありたいと願う気持ちでもありました。2002年からですから、今年で10年作り続け、これまでに1000本以上は作ったでしょうか?
今、僕の工房には120樹種のこの凛が並んでいます。これがきっかけでいろんな出会いもありましたし、雑誌や新聞の取材も受けることになったり、僕の作品中でこれほど様々な物語をつむいできたものは他にないでしょう。
ですから、何かをきっかけに、またこの記事は復活させようと思っていたのですが、小売店の在庫が減って来て、追加の製作をしなくてはいけない時期になってきたので、これを機にまた書こうと思ったのです。
さてこの「ねじれた形」にはちょっとした秘密があります。その作り方から説明しましょうね。
ここにふたつの2次曲面があります。
その曲面を同じ長方形で切り取るとします。Bは素直にCは斜めに。
するとどうでしょう?Bは2次曲面ですが、Cは3次曲面に見えませんか?これが「凛」がねじれて見える基本原理なんです。
(2次曲面とは筒の一部で長さ方向に直線定規を当てれば定規と一致します。3次曲面とは球の一部でどの方向に直線定規を当てても一致する場所はない曲面をいいます。)
具体的な製作手順は四角いブロックの両木口を球面に削り、試験管の穴を空けます 。
そしてこのブロックを傾いた2次曲面で切り出します。Aの傾きはおおよそ9度
その状態を違う向きから見ると、先を細くするため、さらに2.5度ほど傾いてます。
真上から見た切り出しの様子です。まず一回目の切り出しが終わりました。
2回目の切り出し。
3回目。
4回目。ね?真上から見るとねじれた状況がよくわかるでしょう?
底面が球面で削り出してあるために四隅でキリっと立っている印象を強調しています。
「すげーじゃん!」
「あれ!?起きてたのか?」
「だって、なんだかおもしれーじゃん」
「さて、凛の形の面白さはこうしてできるのだけど、今度は木取り編。」
「木口をよく見ると、年輪は平行に走ってるだろう?だから手前と奥の面は板目で両側面は柾目、という木取りを基本としているのね。(例外もたくさんあるけどね)樹種見本って板状のものが多いのだけど、こうして立体だと木口、板目、柾目とひとつの塊にすくなくとも3っつの要素が見えるわけ、林産の専門家が見ても興味深いし、普通のひとが見てもいろんな表情が見えるわけさ。」
「なるほどな」
「ただね、この木取りは時にはずいぶん贅沢なことになるんだよ」
「凛の断面は54ミリ角だから、写真の材は12センチ角あるんで、寸法だけで言うと4個取れる計算だろ?ところがさっきの板目、柾目を出そうとするとこの角材からたったの一個しか取れないのさ。」
「ははぁ~、だからあんたは貧乏するんだな?」
「やかましい!!!人を感動させるってそういうことなの!!!」
「そうして木取りをした角材の木口を特注の刃物で球面に削り出し、
穴を空け、
底面にアウトラインのベニヤをくっ付けて、
傾いた捧の治具にそのブロックを逆さまに刺して
バンドソーで切り出してゆくんだわね。
これを4回繰り返すと
原型が出来るんだねぇ~。」
「あんた、頭いいのか悪いのかよく解んないな」
「あw~」
「で、次はサンディングの工程。これは硬めのスポンジに軸を付けたものでこれにサンドペーパーを立体的に貼って、
これで両木口の球面を仕上げてゆくのさ。」
「こんな風にしてね、
これが、仕上げる前で、
これが、180番の仕上がり。この後また中仕上げ、仕上げと2段階にペーパーを細かくしてやっと仕上がるんだよ。」
「おう、ご苦労だな」
「w~」
「あきれるだろうけど、穴の中もざっとだけどペーパーをかける。」
「何も言うな、解ってるから、、、。」
「今度は側面の仕上げ。ベルトサンダーに外の曲面に合った型を固定して、そこにベルトを走らせる。」
「ここに勘を頼りにパコッと当てて仕上げてゆくんだ。これも荒、中、仕上げの3段階。」
「やっぱり変態だな?」
「一段階終えるごとに鉛筆で線を引いて、次のサンディングでその線が消えるまでかけるってことを繰り返せば、確実に目が細かくなってゆくんだよ。」
「地味だなぁ、、、顔も地味だしなぁ、、、」
「うるさいって」
「そうしてようやく面を取って、塗りに入っていけるのさ。」
「おい、聴いてるだけで疲れたぞ、そろそろ完成が見てえな。」
「はいはい。」
「うはぁー、こいつは激シブだぜ!さすが高けぇ材は違うなぁ」
「 ウォールナット縮み杢 」
「おい、なんだこいつは?なんだか凸凹に見えるぞ」
「繊維がうねうねしているんで光の反射がムラムラになるんだな。」
「ひゃー、ありえねぇー、なるほど、これが正面で板目ってことだな?」
「 タガヤサンー2 」
「で、こっちが柾目ってことか? さすが、銘木ってだけあるもんだなぁ、、、こんな色の木、日本じゃねぇもんなぁ、、、」
「 栃 縮み杢-2 」
「ひゃー!!!こいつ石か?あ!もしかしてこいつは栃爺じゃねーのか?」
「これは別の爺ちゃんだけど、なんでそんなこと知ってるの?」
「だってよ、おれはこの一年、梁の上からあんたの仕事っぷりずっと見てきたんだぜ。」
「全部か?」
「大抵はな」
「う、じゃあ鼻の下伸ばしてるのも、べそかいてるのも、オナラしてるのもか?」
「ふふふ、、、」
「あw~」
「しかしなぁ、、、値段の高い木ってのはいいもんだけどよ、見てたらだんだん自分が情けなくなってきたぜ。もっと安い木の立場はどうなるんだよ?おれなんて腐りかけだぜ、ちくしょう」
「ふっふっふ、、、じゃぁな、いいもの見せてやるよ。次から4個はマキになるはずだった木から作ったものなんだよ。」
「あ~?」
「 キハダ股杢-1 」
「キハダって木は老木になるとぐっと渋い表情になってくるんだけど、この個体はまだ若いんだ、でもその代わりに硬くてキラキラ感が強いんだな。光に当てる向きを変えると玉虫みたいに反射する場所がコロコロと変わるんだよ。それがこの作品の特徴だなぁ。」
「おい、ウソだろう?これがマキになってたかもしれない木なのか?まるで銘木じゃん。」
「ほんとだよ。農家のおじさんがマキにするつもりだけど、いるか?って聞いてきた材料だったんだよ」
「へぇ~、、、、。」
「キハダ股杢ー2 」
「おい、こいつもキランキランだな!?」
「そう、同じ丸太だったからなぁ、、、」
「美しすぎるぞ、、、」
「 コナラ縮み杢-1 」
「側面は半身が白太で髄線バリバリ~。きれいだろう?」
「おい、ウソだろう?これもマキになるところだったのか?」
「そう!」
「この記事のタイトルに一番ぴったりはまったのがこの作品。これは丸太の断面がコロンと丸くなくてアメーバみたいな丸太で表皮が入り組んでいたってことなんだよ。どうしてこんな形になったのか、きっと彼なりの物語りがあったのだろうけど、想像もつかないね。この反対の面は、
なぜかこんなコブのようなツブツブした目で、側面は
見事な縮み。こんな小さな塊にこれほど多彩な表情があるってすごいことだよね。」
「コナラ入り皮 」
「これが、マキだったかも???おいなんだか解んなくなってきたぞ。高い材は木目がいい、安い材はそこそこ、マキになるような材はバツと思い込んでたけど、、、そういうことでもないのか?、、、」
「そうだなぁ。まぁ次を見ればはっきりわかるんじゃないか?」
「ん?」
「なんだよ、また銘木かよ!今度はなんて材なんだよ。」
「お前さ」
「オマエって材か、オー、マエ、ゴッドなんてな。」
「鏡を見てみろよ、、、」
「 白樺、朽木杢-4 」
(朽木杢のモノの使用上の注意は、地下室、お風呂場など、極端に湿度の高い環境では使わないことです。腐朽が進む可能性があります。)
「こ、こんなことって、、、 なぁ、おれはどうしてこんなに美しいんだ?」
「こうして木口を見ると腐朽菌で色が変化した模様って年輪とはまったく関係ないだろう。だから木目には有り得ない形が見えるし、どの面を見ても変化に富んでいるんだなぁ。 」
「今回はお前から、たくさん作ったんだよ他のも見るかい?」
「え?たくさん?」
「これもおれか?おー、大きな節があったところだ。あ、そうか、年輪には関係ないけど、腐朽菌は木の繊維に沿って進んでゆくんだな?つまり導管のトンネルをくぐって行くようなもんか」
「そうかもなぁ、、、」
「しかし、それぞれの面に違う風情があるなぁ、、、。面白すぎるぞ」
「場所によってまったく表情が違うなぁ、、、自分のことなのに不思議だぞ、、、。」
「こんどはあっさりだ、、、。ふ~む、、、。ところで一体全部で何個作ったんだ?」
「12個」
「え!?おれのクローンが12個もいるのか!?あわわわ、、、、」
「うん、買っていただけたら、順々に追加でアップしていくつもりさ」
「やっと解って来た気がするぞ。いのちの色、いのちのカタチって、、、。木の値段って人間の勝手でつけるだけのことで、そんなことには関係なくそれぞれの木の魅力っていうのはあるんだな?高い木はもうそのまんまで美しいし、普通に見える木にだってちゃんと魅力がある、それはそれで銘木にはマネの出来ない事であって、固有の物だよな?おまけに腐れかけの材料にさえ、一瞬のキラメキのような美しさがある。そこには命の、自然の営みさえ感じることができる。それって人間にも同じことが言えそうだな。しかしそれらの魅力は熟慮して丁寧に磨いてやらないと引き出す事は出来ない。競い合うためじゃない、自分が自分らしく輝くためには腐ってちゃいけないわけだ。」
「おーそこまで言えたか、そうなんだよ。木材って誰もが扱える材料で、人間のわがまま放題にできる。でもね、その素材を突き詰めて考えてゆくと果てしなく深くてそこから人が学んだり、感動できることがたくさんあると思うんだ。今回載せた作品の良さって人の個性にもつながるわけだろう?木も人もすべては磨けば光る玉なんだよ。僕が目指しているのは人を押しのけて自分が勝ち残ってゆくことなんかじゃないし、見せたいのは僕の世界でも哲学でもない。見せたいのはいのちの色、いのちのカタチ。そこから何かを感じてもらえたら嬉しいんだなぁ、、、。」
「kuniさん、あんたの作品は語りかけてくるって言ってた人がいたなぁ、、、。おれ、腐ってグレまくってたけど、ちょっと改めるかな、、、。そうだよなぁ、何グレてんだって言われたらつい反発しちゃうしな。こうやって静かに語りかけてくるモノの存在ってバカに出来ない力があるもんな。音楽や映像みたいに直接感情に訴えかけるのではなく、自分が必要とした時に語りかけると静かに返してくれるような、、、そんな存在かな?」
「みなさん、今回の「凛」の売り上げの一部は、また震災の募金にするそうです。僕らをお婿さんにして下さい~。」
「あ?」
「だってよ、kuniさんの顔もう飽きたぞ」
「何~!?」
「ははは、せっかく美しい一輪挿しに生まれ変わったんだ、それくらい望んでもいいだろう?」
「誰のおかげだよ?」
「はっはっは、感謝してるよ。」