イチイ(オンコ)の一枚板のTV台 [特注家具]
今年の3月のこと、市内に住む方から一輪挿しを注文いただきました。メールの文面から妙に木に詳しい印象があって、不思議に思っていましたら、教育大の技術科のご出身。なんと先輩にあたる方だったんですね。で、木工が趣味で小箱やらフォトフレームやらいろいろと作られているとのこと。
4月に奥様と一緒に遊びにいらした時、「これで何か作れませんか?」と持って来られたのは巾60センチもあるイチイの一枚板でした!イチイという木は全国に分布する木で、(北海道ではオンコという呼び名の方が通じやすい)その名は仁徳天皇が笏(しゃく)を作らせ、その出来映えの良さに正一位を授けたことに由来するとのことです。成長の遅い木ですから普段町で見かけるその木の直径はおおむね15センチ程度で60センチの板が取れる木であれば、その直径は70センチは超すでしょうから、これは神様みたいなもの。その板で何かを作るというのですから半端な覚悟では作れません。そしてご自宅の様子を見せて下さいと訪ねたのが冒頭の写真です。
木工が趣味というだけあって、あちこちにご自身の作品があり、楽しいリビングです。唯一気になったのがTV台。これだけが既製品であることが目立っていたのでした。そこでイチイを使ってTV台を作る事を提案して快諾を得て図面を描きました。
イチイの板は厚みが25ミリ程度しかなかったので、それで本体を作ってしまうと強度が出し切れません。そこで本体はブラックチェリーの突き板で仕上げた丈夫な箱の周りに装飾部材としてイチイを使うという考えです。本体にチェリーを使うのは最終的に焼けた色がイチイとチェリーで良く似ているからです。おまけに引き出しの口板はパインのサーモウッド。これもまたふたつの木の焼け色と似ているんですね。一つの家具の中に三つの樹種が使われるというのも普通ではありませんが、作り立ての色がそれぞれ違っても年月をかけて少しずつ色が似て来るという楽しみもあるわけです。
イチイ材は支給で18万でお引き受けしました。
イチイの板は2箇所を45度に切ってそこにビスケットジョイントで組んでこれを本体にボルト締めという構造です。
これが完成した姿。後ろに既製品のTV台が見えてます。
背面もちゃんと仕上げてますよ。
天板と側面のジョイントを拡大して見ると、
年輪がちゃんとつながっていますでしょう?
耳の部分は自然のままの凹凸を残して一切触らずに面だけをさっと取りました。
ここから見る年輪の細かさは格別です。ざっと数えましたけど樹齢100年を軽く超えていました!
口板はサーモウッドのレリーフです。3種のパターンで作りました。
技を駆使した菱形の繰り返し、
竹の子杢を意図してうねらせた木目、横向きの「ファイヤー!」てな感じ?
えぐった面に出る楕円の木目。同じようでやっぱり一箇所ずつ微妙に違う。虫眼鏡で見ても楽しめますよ。
神様級のイチイの板が圧倒的な存在感を醸し出し、虫眼鏡でさえ楽しめる細部を持ったとてつもないTV台になりました。これはお子さんの代まで使われる事でしょうね。
気さくなご夫婦のお人柄のおかげでとてもさわやかな納品となりました。
Mさん、ほんとにありがとうございました!
追記
数日後メールをいただき、しみじみする内容でしたのでそのまま載せさせていただきます。
「さっそくブログに載せていただきありがとうございます。
30年間手を付けることができずにいた材料が作品(再度命を受け)となり、我が家に居るというのはとても感慨深いものがあります。
出来るだけ「原形をとどめたものを」と考えていただけに作品を拝見した時には、心からよかったと思いました。
友人からは「早く切って作品に」と言われていたのですが、神々しさを感じていて、切ることができませんでした。
ひとえに国本さんのおかげだと思っています。
今、作品を見ながらメールをしていますが、ずっと昔から我が家に居たように溶け込み、どっしり構え、こちらを見ています。
何年か後の変化を、ぜひ見に来てください。」
友人からは「早く切って作品に」と言われていたのですが、神々しさを感じていて、切ることができませんでした。
ひとえに国本さんのおかげだと思っています。
今、作品を見ながらメールをしていますが、ずっと昔から我が家に居たように溶け込み、どっしり構え、こちらを見ています。
何年か後の変化を、ぜひ見に来てください。」