春のアートマグネット「桜は余白の造形」ー30年来の夢 [四季のアートマグネット(DVD収納のために)]
学生時代、ヨーロッパを遊学した最大の収穫は「日本の美の再認識」でした。
日本の美術工芸にも、ちゃんと幾何学の裏づけはある。ただ、それを押し通すのではなく、省略したり、くずしたりすることである種の硬さをやわらげる工夫をしている。それはまるで、人と地球がどうあるべきかのバランス感覚が背景にあるかのようです。
北海道という土地に生まれ育った僕には、質の高い伝統的なものを見るチャンスは日常にはありません。それはひどく寂しいことでもありました。しかし考えてみればこういう土地に育った者だからこそ、日本の美術工芸を見る視点は、まるで海外の者のように新鮮に見る事ができた、とも言えるのです。
「日本の美術の特性をまるで海外の者のような視点で見、その長所を生かしつつ、現代なりの意識で新たな造形を創り出すこと」
それが僕の密かな夢となりました。それから30年、、、。
のえる小児科のデザインを終え、AVラックのデザインを始めた時、その30年来の夢が実現しそうな予感がしたのかもしれません。この2ヶ月あまり、夢中になってデザインする僕がいました。そしてこの長い長い夢のひとつの答えがようやく出せたような気がしています。
でもこれで、ゴールじゃない、僕はやっとその扉を開けたところ。
今回のマグネットで目指したのは、単体でも美しく、愛らしく、なおかつ組み合わせた時に出来るバリエーションが驚くようなものであること。そして、季節によって、タイプの違う造形が楽しめること。例えば、余白の造形、曲線の造形、直線の造形というようにです。
さて、春は「余白の造形」ですが、単体で見た時には、組み合わせた結果をまったく想像できないような不思議な形ができないか?とスケッチを始めて出来た形です。
材料がもったいないので、スタイロフォームで形の検討を始め、手前の形に決めました。
正確な四角に木取って、毎度のことながら、巾の中心に木目の中心を合わせています。裏にはネオジウムの穴も空けました。
傾けて、凸のカーブに切り出します。
サンダーにかけるための治具に嵌めて、仕上げてゆきます。
中仕上げまで終わったパーツです。すべてに竹の子のような木目が出ているでしょう?
正確にアウトラインを引いてゆきますが、この型、よく見ると裏が凹のカーブになってぴったり付いているでしょう?
極細のバンドソーで切り出して、
側面もペーパーで荒仕上げ。
最終仕上げは手で、ちまちまと、、、。
淡いピンクに着色し、クリアをかけて、完成!
試作を作った時に気が付いたのですけど、こうしてミニなオブジェでもオシャレでしょう?横向きでも、
面白い。
TV収納の天板にこうして飾ってあるとするでしょう?そこにお客さんが来る、「あら、これオシャレね~」ってなりますよね。で、Pさんが、目の前でこのミニオブジェをひょいとつかんで、DVDの吊棚にペタンと付けると、
「わぉ~!」じゃないですか?
はい、単体では予想もつかなかったこの形、桜と梅を同時に表現しちゃってるんですね。パーツとパーツの間に出来る余白を今までになく大胆にデザインした結果です。これがCAD上で出来た時はガッツポーズでした!「オレまだ進化してるよ!」って。(笑)
何日もパソコンに向かっていたんですよ。ほとんど偶然だったのですけど、幸せな偶然を生み出すために必要な必然の努力の量ってあるのかな?って思っちゃいました。
他の組み合わせのバリエーションは、
ハート♪
海の生き物?
風車?
日本の美術における幾何形を再認識して、しかしその扱いには「素材を生かす」に象徴される心もあることに気が付き、そこをどんどん掘り下げて、木という素材の見せ方の現代における意味も製作のコンセプトとして磨いてきました。
デザインと技術と思想、30年かかってようやくそのバランスが取れつつあるのかな?と思えるようになりました。そう思えたタイミングが、今回のAVラックであったことがまた嬉しいことでもあったのです。
というのは、Pさんは、自称「kuniのブログの一番の愛読者」でありまして、ずっとkuniの成長を見守ってくれていたのです。僕はそれを知らなかった。今回の仕事の話になった時に初めて知ったのです。他にもね、彼にはちょっと借りができまして、その恩返しもしたかったのですね、、、。だから2ヶ月うんうん唸って考えたというのもあります。なかなかアイディアが出なかった時は、落ち込みもしましたけど、(特に枝豆とか)あきらめないで、ほんとによかった。今は自分を褒めてやりたい気分です。
Pさん、改めてありがとうな!
そして、この瞬間に立ち会ってくれた皆さんにも、ありがとう!
30年来の夢の実現、いかがでしたでしょう?
次は夏!しばしお待ちを。
夏のアートマグネット(こんな木があるの!!!?) [四季のアートマグネット(DVD収納のために)]
夏のデザインはのえる小児科さんの追加で作ったものにして、樹種で一工夫することとしました。
写真の紙はA4サイズ。左がのえるさんの大きさで右が今回の大きさ。A4に合わせて小さくしたのです。一般家庭ではこのくらいの方がいいでしょう。
ところがここで、問題が発覚。
奥が前回、手前が今回のものですが、サイズを小さくすると、側面から見た時のカーブもきつくなる(Rが小さくなる)ので、今のサンダーの直径では大きすぎるのです。
これ、よく登場するサンダーで、ボール盤という穴あけの中古の機械をバラバラにして改造、自作した機械なんです。元々の機械に追加した部品はほとんどが木で出来ています。15年使い続けてもうボロボロなんですけどね。
あの波型は手前の円筒部分でサンディングするのですけど、ここの直径では大きくてだめ。そこで思い切ってこの円筒を削り直すことにしました。15年ぶりにバラすのでドキドキもの、、、。
ほら、既成の機械ならアルミか鉄の鋳物で出来ているはずが、これは木の塊。しかもその固定方法がきわめて野蛮。(レイリ-さんに笑われるw、、、)
手持ちのバイト(刃物)で懸命に直線を出してやっと上下を同じ直径にして、
クッション性を持たせるためにコルクを巻いて、
元通りにセットして、
半日かかって復旧しました。
さて、今回出して来た材料はバットに使われることでよく知られる、アオダモとパープルハート、紫檀の3種です。
これが今回使おうと思った紫檀なのですけど、表面がやたらと汚れていて、しかも干割れがひどいのが解りますか?
この材料、友人のお爺さんが木が好きで、趣味で集めていたらしいのですが、なくなって、家族の誰も興味がなく、野ざらし同然に置いてあったのだとか、、、。あんまりむごい話なので、一枚いただいたというわけ。
削った結果がこれ。
手前からアオダモ、パープルハート、紫檀。なんだかとんでもないものが出てきたでしょう?
アウトラインを切って、
いきなり完成にしちゃいます。今回はいろんなことがあったので、少々はしょりました。
どうですか、この紫檀の硬質感、キラキラしてるんです。これが野ざらしにされていたんですから、まぁ、、、、。
パープルハート。南米産でマメ科の木で、これが元々の色、着色してないんですよ。信じられないでしょう?でもホント。南国の暑さを感じさせるかな?と。
で、これがアオダモ、白いでしょう?バットに使う木ですから、すんごい強いのですけど、あまり太くならないのと、山から出てくる量が少なく、家具、建築ではまったく使われていません。野球選手が植林のお手伝いをするほど量が少なくなっていますからねぇ。家具職人でこれをいじったことがある人ってほとんどいないんじゃないでしょうか。かくいうkuniもこれが初めてですね。
さぁ、今度はしべの材料ですが、倉庫で一時間ほど、あれこれと、とんでもないものを出してきました!
まずこれ、三味線の職人からもらった紅木紫檀という紫檀の中でも超高級材!奥が胴に入る方で、手前がヘッド部分ですね。
これはエンジュという木の股の部分。何やらアヤシゲな木目でしょう?
左上が山桜の股杢、左下が山モミジの鳥目杢、中央は栃の縮み杢、右はパリサンダーという高級材。
これは先の山桜の股杢を切っているところなんですけど、こういう残留応力の激しい部分というのは切るのに危険を伴うのです。というのは、切ってる最中にその応力が開放されて、材料が動きまくるのですよ。時には鋸が挟まって止まってしまうことさえあります。
なのになぜ敢えてこんな材を使うのかというと、普通なら捨ててしまうような、こういう部分には木の不思議、命の深さが凝縮しているんですね。小さな物なら何かできるはずだと、何年もとってあったのです。
ただ、こういう材料はまともに削ることが難しいので、鋸だけで、誤差0.1ミリ以内に正確な四角に切ってゆかなくてはいけません。そうしないとマグネットの深さが不正確になってしまうのです。
動きまくる材から鋸だけで正確な四角を切り取ってゆくって、かなりの経験がいることなんです。
そうして出来た四角の材に直径6.1ミリのマグネットの穴をあけて、
旋盤にかけるために8角形に。
旋盤のチャックに咥えた丸棒の先端に直径6.2ミリほどの凸を作り、
そこにコンコンと叩き込みます。
ビューんと回しながら、削って、、、、。
またもや完成に行っちゃいましょか!?(笑)
山桜の股杢の縮み部分!下に写っているのはこの杢を取るために犠牲になった材料。直径わずか30ミリに縮みが10本は見えるから3ミリピッチで縮んでいるということになりますね。こんなの初めてです。
これは南米産のブラッドウッド。クワ科の木で文字通り血のように赤いからこの名が付いてます。奥に見えるのは6年ほど前に作った一輪挿し。
こういう鮮やかな赤味、青味って褪せやすいのですが、ブラッドウッドは褪せ方が緩慢です。
これが三味線用の材から取った、紅木紫檀!キラッキラ。「奥びかり」っていう言い方があるんですけど、木の奥のほうから反射する感じがあって、しかも細かく縮んでいるので木味がほんとに深い。なるほど三味線に使われる材で最高級という意味がやっとわかりました。
台になっているのがヘッド部分。しべは将来こんな色に変化するでしょう。
お花に詳しい方はご存知でしょう、ツリバナ。日本の木材中で一番白く、かつ緻密で、象牙か?と思うほどの質感です。台にしたのが今回使った丸太で、立ち枯れしてしまったもの。
病気だったのか、鹿に樹皮を食べられちゃったのか?ちょっとグロイ肌ですね、、。でも中身はこんなに清楚。
ナラの埋もれ木。地中に50年以上は埋まっていて、イオウとか鉄分とかが木の中に入り込んで独特の色に変化した木のことです。台にしているのが通常のナラの色。
まるで炭ですね。ナラは元々タンニンをたくさん含んでいるので土に鉄分が含まれていると黒く反応するのです。ナラの埋もれ木はそのほとんどが黒系に反応しています。
先のツリバナと並べると、まるで碁石ですね!?
古い座卓から取ったタガヤサン。
花びらに使ったパープルハートからもしべを作ったのですが、この色、面白いのです。
右が鋸で割った直後で、左が一日経過した色。明らかに濃くなっているでしょう?たぶん酸化によって色が出てくるんですね。
そして台になっているのは、やはり6年ほど前に作った一輪挿し。青味は退色しているけど、そのかわり透明感が増している感じですね。面白い、、、。
またまた出てくる不思議な銘木、パリサンダー。値段を調べてみたら、12センチ角の床柱が120万とか!?(ほんとかい?)20年ストックしてありました、、、。
台の上面が20年経過した色です。黄色味が褪せるのですね。
こんな写真が見れるのはここだけでしょう?山モミジの鳥目杢。台の手前の面は樹皮がべりっとはがれた面。コブとは逆におへそみたいにひっこんでるんですね。それによって木目がうねるので、仕上がった面にはキラキラの光の反射が出来ます。これまた超稀少材。
学生時代に銘木屋さんで分けてもらった栃の縮み杢。あまりの美しさに30年とってありまして、、、ようやく日の目を見ました。宝石ですね。
最後に、
秋のアートマグネット「カエデの翼果は曲線の造形」 [四季のアートマグネット(DVD収納のために)]
秋のマグネットのために出してきたのは、のえるさんの桜の時に使った、ヒバの丸太。心材の赤味、白太、さらにその外側にモカ色の3色の変化が面白い丸太と
赤味と白太のウォールナットの2種類です。
年輪が四角の辺と平行になるように木取ってゆくのですが、
切り出した時にこの色の変化が正面から見えるように斜めに角材を取るための線を引きます。
鋸の定盤の上にランバを敷き、その上に板厚分浮かせてアクリルの板をセットします。このアクリルの端に鉛筆の線を合わせれば望みの角度で切れるわけです。
ね!?
こうして木取った角材は色の変化とその傾きが一定になります。
その側面に断面を描き、切り出した結果は、
茶色のグラディーションと
こんなモカ、バニラ、ストロベリーの3色みたいな変化が出てきます。そこから今回のアイテムを切り出しました!
これ、何に見えますか?
さんざん悩んで、枝豆がイケるかも!?と思ったのもつかの間、「それは夏!」と挫折した後(笑)次はキノコに挑戦しましたが、これもいまひとつ気に入りませんでした。で、もう一度秋の果物はできないかなぁ、、、と考え始め、
上のマメリンゴに葉っぱが付いたような形を描いてみたんです。その色を変えたり変形させるうちに「これ、カエデの翼果じゃん!」って思いましてね。
カエデの翼果(よくか)とは、もちろん種のことで、人によってはブーメランとも言いますね。
単体の形を検討した後、回転複製してみると!
「ワオー!!!これ最高!!!」と、ガッツポーズどころか、万歳三唱くらいの気分になりまして(笑)その日一日ウキウキのkuniでしたとさ。
さて、アウトラインを切り出して、仕上げに入ると、、、
覚悟はしてたんですけど、この首の入り隅部分の仕上げが手間がかかって、かかってまいりました!
サンドペーパーを貼ってあるヘラ状の物がちゃんとカマボコ状になっているのが解りますか?
180、240、400番の3種のペーパーを使い分けて、ひたすらシコシコ丸2日、、、。
途中で眠くて眠くて、、、
途切れる集中力、、、
ぎゃー!
一番細くて弱いところで折れちゃいました。あ~あ~、、、。
なんとか仕上げ塗りまで来ましたよ。さて、完成は?
、
、
、
秋です。
ウォールナットの削り屑の上に置いたら、枯葉と翼果みたいでしょう?
メロディーが流れて、
ハグするふたり~
羨ましがるプレイリードック、ってどういうドラマじゃ!?
(竹串で刺さってます、笑)
図面の通りの構成は、
ぐるんぐるん、
広がってます、
お星の先端にお豆?
踊る曲線!
カエデの種を思わせる形ですが、動物、人、音符、もやし?といろんな見え方があって、実に楽しく、もちろん木目と色の変化も盛り込んで、生みの苦しみを味わった秋でしたが、快心の作となりました!
仕上げに手間がかかり過ぎるのがちょっと課題ですけどね。まぁ、また妙案も浮かぶかもしれません。
ね、今度は愛嬌のあるヘビ?造形としても面白い形でしょう?
新作の四季のマグネット。気合入れすぎて全然採算合わなくなってきちゃった。(あら~、、、お疲れ気味のkuniです)
でも美しいものが出来ると、やっぱり嬉しいなぁ。
「じゃぁね!」
冬のアップはもしやすると納品の後で時間がかかるかもしれません。あいかわらずけっこう忙しくて、なかなか訪問ができないkuniです。ごめんね!
冬のアートマグネット「雪は直線の造形」 [四季のアートマグネット(DVD収納のために)]
冬の製作は難度が高く、やり直しも覚悟していましたが、順調に完成したので、アップできます。
Pさん、今回の仕事に関しては「おまかせ」と言って、ほとんど注文を付けなかったのですが、唯一言ったのは「冬は雪ん子じゃないものを考えて、、、」でした。(笑)
「えー!?それ厳しいなぁ、、、」って思ったのですけど、雪はどうしてもクリアしたい課題だったので、挑戦するも、、、。
雪って基本的に6角形のバリエーションですが、物を削り出して作る分野では、入り隅って非常に難しいのです。特にそれが90度ではない場合はなおさら。で、この方向では未来がないと判断して、イメージから形を決めてゆくことを考えました。
北海道の冬、それは肌を刺すような、痛い寒さです。だからハリハリ、つんつんとした尖った寒さを表現しようと、、、。そしてふと思い出したのは、松の葉の家紋です。
かつて、日本の文様を再認識した時期にいつかこの松葉をアレンジした形をつくりたいな、と思っていたのです。パーツを松葉状にしたとして、では、全体の構成をどうするか?その時、イメージの助けになったのは、
タンポポ!
そうして出来たデザインがこれです!
どう?痛いような寒さの感じが出てません?
そして、図形の重なりは、
V字を傾けることで、表現することに。
V字の片方のサイズは厚み5ミリ、巾8ミリ、長さ35ミリで、材はシナの白い個体を選びました。
片方を18度に切って、接着します。
約50個。
補強のために1.3ミリ厚のサネを入れます。
今度はV字の先を薄くして、さらに巾も落として、もっと尖らせるのですがその工程の写真はあまりに難解であろうと、あきらめました。
ぴんぴんに尖らせて、並べていったら、あらまぁ、一周しちゃいましたよ。なんという造形でしょう!?
単体はこんなです。
さてもうひとつのパーツの菱形も。
ちっさ!
一個の角度は36度、かなりの精度です!
ちまちま、ちまちまと面を取り、
菱形も面を取り、、、あんまり小さくて何度も落とします。
この後、ほんのかすかに青く着色をして、完成。
小さなバリエーションからいきますよ、、、。
ほほう。
なるほど。
おー!
と来て、立体になることも発見。
ありゃー。
ひゃーーーー。
そして、覚悟してよ~
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、
いかが?
昨晩から今日の午前中にかけて、収納箱を作りました。今回は底板にも鉄の複合板を使っているので箱の中でもしっかりくっついてます。そこに原寸の図面を置いて、その上にレイアウトしました。とうとう完成です!
昼を食べたら、緊張の糸が切れたように疲れがどっと出て、昼寝しちゃいましたよ。30年来の夢の実現に向けての製作でしたからね。
大変でしたけど、楽しくもありました。100点満点じゃないけど、よくやったと思います。さぁ、17,18日にかけて納品に行って来ます!
その様子はまた後日!