みちさん、ありがとう。(特注の現代仏壇)ーその1 [現代仏壇]
ブラックチェリーを鉋がけしています。
右端の方に濃淡がみえますでしょう?ここは全て木目が波打っている、つまり順目と逆目が交互になっているところ。こういう場所を難なく鉋をかけられるようになるまでに20年以上かかりました。うまく削れるとその瞬間だけは何もかにも忘れて無心になれる作業です。自分でも不思議なんですけどね。自らの手で研いだ刃物がザラザラだった材料の表面をキラキラの木味に仕上げてゆく。それが何度やっても飽きることのない作業なんですね、、、。
さて、みなさん、ほんとにお久しぶりでした!ご無沙汰してしまい、ひそかにご心配いただいていた方にはすみません。
kuniは元気でやってましたよ。いろんなことがありましてね。追々許されることは記事にしてゆきますが、まぁ一つは経営難です。長引く不況にジリジリと追い詰められまして、夏がそのピークでした。なんとしてもその危機を乗り切ろうと、このブログでの小物の販売やら、若い時に集めた大工道具の名品を処分したり、長期の出稼ぎに出たり、、、。人の優しさに助けられながらどうにか墜落寸前からわずかに上昇、相変わらずの低空飛行ながらとにもかくにも墜落だけはまぬがれました。
そんな厳しい状況の中、ソネブロのみちさんからメールをいただきました。「実家で小さなお仏壇を買おうかという話が出て、そんなことならkuniさんに作ってもらいましょう」という話になったのだそうです。嬉しかった、、、鼻水出ました、、、。ははは。
出稼ぎに出るタイミングだったのと、その後も急ぎの仕事やらでずっとお待たせして、年始からやっと取り掛かったのでした。
小ぶりでシンプルなお仏壇です。以前にも作った形を踏襲していて、45度の面取りとつまみも45度傾けてコーディネートということですね。扉は前スペースに余裕がないということで4枚折戸のご要望。一つ目の見所はつまみ。やりますよ、kuniらしいことをね!フフフ。
戸を開くとスライドのサブ天板に引き出し。この引き出しの口板が見所の二つ目です。
これは5年ほど前に作ったイチイ材のオブジェ。イチイの木ってかなり細かいピッチで枝がありますから、45センチの長さに無欠点の材ってなかなか取れないものなんです。この作品はそれが出来たし、出てきた木目も最高のものでした。これを引き出しの口板に使ってしまおうと思ったのです。
本体は旭川で調達したブラックチェリー。100枚はあろうかという在庫の中から選びに選んだ最高の3枚。
中央の板が巾35センチもある立派な板、ここから本体全てが取れます。左の板から扉と棚板。右の板からは背板を取ります。1枚の板から本体すべての部品が取れるというのは木目の雰囲気を合わせるには最高です。
ただ、端には白太が絡んでいてこれは好みが分かれるところですから、みちさんに写真を送って快諾を得ました。ブラックチェリーは焼け色がすごく濃くなるタイプの木でしてね。
これはシュウリザクラなんですけど、焼け方はそっくりで白太と赤身の差は3年もするとこんな美しいコントラストになります。
本体を木取りして、4枚折戸の木取りをし荒削りをしてみると中から樹液貯まり(ガムスポット)が出て来てしまいました。
これはブラックチェリーの最大の特徴なんですね。これがあるからブラックチェリーだと解るくらいですから、適度であれば木味のひとつなんですが、あまり大きく入るのはさすがに美しくはない、、、。
最後の残りでもうひと組木取りしてみました。おおきな欠点はないので先ほどの2枚をこれと入れ替えて木目がうまく合うところで組み合わせます。
まずまず、揃いの板のように見えるところまで来ました。ひと安心です。
これは背板の組合わせ。実は今回、最初のうち合板構造で考えていたのですが、みちさんの「無垢はむりでしょうか?」の一言があり、万が一狂って調子が悪くなった時は運賃を持っていただけるなら修理は無償で、という条件付きで無垢で作ることにしたのでした。
この背板は3枚合わせると約40センチあります。これを1枚で作ると、冬場は2ミリは縮むし反りも大きい。でもこうして3枚に分割すれば一枚あたりが縮む量は約0.7ミリですし反りも3分の1で済みます。
だから、こうして一枚ずつが自由に動ける工夫をしてやります。無垢のフローリングと同じですね。
さてこれはスライドのサブ天板です。シャクリのところにスライドレールが付くのですが、ランバコアの断面が見えますか?これが合板構造と言っていたやり方です。まずランバコアの端に無垢の角材を接着してランバと平面に削り出す。その後、表裏に2.5ミリに削り出した無垢材を接着する。そうすると表面は完全に無垢なのにまったく伸び縮みのない板が出来上がるわけです。最初はこの方法で全てを作ろうと思ったのです。これは無垢よりも手間のかかる超高級仕様なんですけど、作り手じゃないと理解しにくい手法ですね。
このサブ天板だけは金物との関係で伸び縮が許されないのでこの構造にしたのです。
ここに隠し丁番が仕込んであります。表、裏どちらからも見えない、開いた時にしか丁番は見えません。
ほらね。で、この金物の彫り込みは、
こんな2段の長円の彫り込みで、この左右に許される誤差は0.1ミリほど。これが16箇所もあるしびれる加工、、、。
側板と地板、天板もダボ7本ずつのこれもまた0.1ミリ精度の穴加工、、、。
やっと組み立てて、
扉を仮に吊ってみます。というのは、家具用のマグネットって小さなものでも直径10ミリはありますから、こういう小ぶりなモノには大きすぎて見栄えが悪い。なので代わりに5ミリのネオジウム磁石と超低頭ビスを使うことにしたのですが、これの効き具合は勘がたより、、、。
この扉の裏の超低頭ビスを、
この5ミリのネオジが引き付ける。やってみるとちょうどいい感じでした。さて、安心して可動棚を切って合わせてみると、
ひえー!!!!!前のダボ位置が違う!!!
ショックでしたねぇ、、、。しばし落ち込み、みちさんに電話しました。
「あのー、、、棚板の奥行10ミリ深くしていいかなぁ、、、。」
「大丈夫だと思います。」
「すみませ~ん」
さて、kuniマジックですよ。つまみです。
材料置き場からゴソゴソとタガヤサンの端材を出してきました。まず、対角線に年輪が平行になるように20ミリ角を切り出します。この時頭の中で「どうしてこういうアホなことやるかな?」とつぶやいてます(笑)
切り出しました。なぜこういうことをしたのかと言うと、
ここに小さく渦を巻いたような場所があるでしょう?ここをつまみやすいようにしゃくると、
ウシシ~でしょう!?
さあ、木地の状態での完成です!扉を開けると、
口板も付きました。
この状態で2階の事務所に1週間置いて狂いがでたら、少し削ったりしてから塗装しようと思います。今、この記事を書いている時点で3日経っていますが大丈夫そうなので、行けるでしょう。
その2で塗装後の完成をアップしたいと思います。
いやー、久しぶりの記事でした。この半年ほどブログがほとんど出来なかったのは舟弘さんという鍛冶屋さんの新作鉋の開発の手伝いをしているというのがもう一つの大きな理由です。これも後日記事にしたいと思いますけど。
ぼちぼちな更新になりそうですが、遅ればせながら、今年もよろしくお付き合い下さい。
みちさん、ありがとう。(特注の現代仏壇)ーその2 [現代仏壇]
当ブログ初の食の話題、「タガヤサンのブリーチ漬け」!?
こんなもの食べたら死んじゃうよ(^_^;)。器はみちさん作。その結果は最後の方で。
ウレタンのガン吹きで、下塗り3回、クリア3回を塗って、通常の家具ならこれで上等の仕上がりなんですけど、さらに研磨してます。(普通じゃない、、、(^_^;))
最後に特殊なワックスをかけるのですけど、ガン吹きってどうしても肌がミクロの単位ではゆず肌になるのと、木の加工をする場所と同じ建物の中に塗装する場所があるとどうしても木のホコリがいっしょに固まってしまうのね。だから最後に研磨してワックスをかけると、面精度が上がってカチっとしたハリが出て、かつスべスベに仕上がるんです。でもね、とにかく手間がかかって大変。
ワックスをかけて、
最後の組立。レールや丁番を何度も調整して最良の状態にします。
完成です。特注の現代仏壇、(H600、W460、D340)ブラックチェリー
エ?オネダン、、、30かなぁ、、、。
右の側板のたけのこ杢。
左の杢。両方ともたけのこ杢で揃えて。
天板は白太絡みにキラッキラ。
扉を開けると、、、
芯持ち教授!?あはは。
丁番の付いてる面は髄線がバリバリ。この丁番、見えても様になっているのがお気に入りです。ただね、加工と取り付け精度がハンパない、、、。
スライド天板と引き出し。引き出しの細部は、
仰天の木目。
そして生の色はこんなだったタガヤサンはブリーチによる漂白で
バッチリ!
このつまみだけで、一個にだぶん5千円くらいの手間がかかっていると思います。ブリーチした後、何度も水に晒さないと成分が残ってしまうと塗料が黄変するんです。水に晒した後、ストーブの上に吊るして一日乾燥させてやっと塗装でしょう?ものすごい手間。でもそれだけの美しさがあるよね。
ご予算の倍の手間を投入したお仏壇でした。首吊りたいくらい苦しい時に注文してくれて、ほんとうに嬉しかったですからねぇ、、、。その精一杯のお返しです。100点満点じゃないけれど、いいものができたと思います。
みちさん、ありがとう!