形見のそろばんケース(刳り物) [特注の小物]
お久しぶりです、ご無沙汰してしまってごめんなさい。実は昨年の秋から身内の健康問題が発生してすっかり生活が変わってしまい、仕事と病院で精一杯でブログどころではなくなってしまっています。そんな中でもブログからの嬉しい注文がいくつかありましてね、今日はそのひとつを。
昨年の8月のこと、フォトフレームを注文下さった方から祖父の形見のそろばんのケースをお願い出来ないだろうかとのお問い合わせがあったのです。もちろんお引き受けして、そのそろばんを送っていただいてびっくり。
立派なそろばんで、
4方枠の組み手は「上端留め蟻型組み継ぎ」ということになるかな?いい仕事してます。それと最初は気がつかなかったのですけど、側面に小さな小さな、、、
なんと、仕切り板の先が1.5×4.5ミリほどのほぞになっていて1.5ミリ角の楔が入っているではありませんか!
いや、これにはびっくりしました。こんな細い穴を空けるには特注のノミが必要だったでしょう。芸に遊ぶというか、なんとも粋な職人さんですねぇ〜。
で、こんな仕事に対してどんなケースが有り得るのか随分考えました。お客様から提示された予算の上限は10万とこれまたびっくりでしたので、手間のかかる仕事も可能ですけど、この手間のかかったそろばんに対比させるには厚い無垢材を掘り込んだものにしたいなぁ、、、と考えたスケッチが次です。
身はカリンの杢でふたはヤマモミジの鳥目杢。閉まった状態はただの四角で開けるとアーチ型の掘り込みになっていてそのアーチ部分は指を入れる空間です。使い勝手から来る形をデザインとするという発想でようやく納得できました。このスケッチを描くまで3ヶ月お待たせしちゃいました。このアイディアに快諾いただき、年末にようやく作業に入りまして、
これが削り出しの型で、四角の溝に材料が嵌ります。
裏にはアーチ型に掘り込む溝が付いてます。
材料をしっかり固定して、
ルーターという機械で掘り込んで行きます。中央に見える直径15ミリの刃物は超硬という、ものすごく硬い金属でできていましてね。人造ダイヤの砥石じゃないと研げないものなんですが、これを自分できっちり研いで作業しました。
こういう風に無垢材を掘り込んで形を作る仕事を木工の世界では「刳り物」(くりもの)と呼びます。広辞苑によると、刳るは「えぐって穴をあける」とありました。
カリンも同様に、
半日かかって削り終えました。失敗するとやり直す材料がないのでものすごく緊張して終わった時には体がコチコチになってました(笑)でも結果は完璧!自分で研いだ刃物がこんな完璧な削りをしてくれたことに「おぬし、やるのお〜」とか自画自賛。
そして年末年始にかけて2週間ほど寝かせて狂いを出させてから狂い取り。
機械の定盤にサンドペーパーを貼付けてその上でねじれと反りを直します。そうしてようやく完成したのですが、頭にゆとりがなくて完成写真を撮り忘れてお客様に発送してしまいまして、、、そしたら写真を撮って送って下さったのですねぇ、、、。
なのでここから先はお客様が撮って下さった写真です。
ヤマモミジという材はイタヤカエデと間違って混穫されるため材料屋さんで出くわすことはごく稀な材なんです。おまけにその鳥目杢でしょう?こんなものは運が良くないと手に入りません。十数年前に手に入れて保管してあった材です。刳り物というのは刳ることで材料のバランスがくずれてその後で形が狂うのです。だから新しい材よりもなるべく長い間寝かせてあった枯れた材の方がいいのです。
木口を見ると鳥目がずーっと成長している様が見えます。
身のカリンの側面には順目と逆目が縞状に並んだリボン杢とも言える模様が出ています。
このあたりは鳥目に加えて縮み杢も見えます。そしてこれをちょっと開けると
アーチ状がちらり。
開けるとなるほどの指が入る空間でしょう?
真鍮製の円筒蝶番はとっても高級感があって大好きな金物なんです。でもこれ取付精度がなかなか微妙なんですよねぇ、、、。
お客様にもとても喜ばれて仕合わせなお仕事でした。
Oさん、本当にありがとうございました!
ダイニングチェアー「つつみ」の制作 [日々の出来事]
久しぶりに「つつみ」の制作をしました。追加予算を出していただき、1脚11万で4樹種での制作です。奥左がナラ、奥右はウォールナット、手前右がエゾヤマザクラ、手前左が桑です。ウォールナットを除く3樹種は近年お付き合いし始めた札幌のLOVE WOOD(能美)さんで入手しました。
これ北海道産の桑材なのですが、実はエンジュの山のなかに紛れていたものだったのです。エンジュを在庫していることでさえ珍しいのですけど、「これねぇ、桑だと思うんですよね、、、」の一言に「うそ!!!」と猛烈に反応してしまいまして「えー!?いやー事後承諾で桑に変更します」「えー!大丈夫ですか!?」なんて会話になりました(笑)
桑ってね、材料屋さんで見つけたのは初めてなんです。いつか桑で「つつみ」を作ってみたいくらいに思っていたほど市場では出くわしませんから、嬉しかったんですねぇ〜。
で、ルンルン気分で持ち帰ってさっそく削ってみると、
奥が焼け色で手前が2ミリほど削った色です。すごいでしょう?金桑なんて言い方もあるんですけど、これは北海道の金桑だ!って思う様ないい色でした。
写真ではなかなか伝わりにくいかもしれませんが、感動の仕上がりです。
キラキラしてるし、
年輪と直交している模様が髄線。
これはエゾヤマザクラ、緑がかった縞模様がうんと派手な個体を選んだのですけど、これがまたうっひょー!!な結果。
すんごいでしょう?これもまた「いつかこんな材で作ってみたいなぁ」なんて夢が実現したんですわ。
後ろから見たアームの年輪がド派手でしょう?
これは北海道産のナラ。硬くてしっかりした木味のいいナラです。ナラは髄線がはっきりしているので曲面にした時にこそナラの本領って発揮されるものだと今回しみじみ再認識しました。
この貫は虎斑(とらふ)ですね。
ほらここの髄線の見え方はまた格別です。
最後は極上のウォールナット。こんなに色が濃くて木味の締まった材はなかなかありません。
ここはあえて濃淡のある材を見せて、
フィンガージョイントの奥と手前でものすごく色が違って見えるのは木の繊維の向きによって光りを反射する角度が違うからです。
今回のお客さんは自宅のリフォームに合わせて本当に気に入ったダイニングチェアーを選ぼうと探して探してようやく僕のブログに辿り着いたのだそうです。
「ウェグナーのY チェアーも見て座ってもみたんですけど、やっぱり「つつみ」の方がいいと思ったんですよね。これを見つけた自分を褒めてやりたい」とまで言ってもらえたのでした。
28年にわたって進化させ続けたデザインで、途中でもうやめようかと思った時期もあったのですけど、あきらめずに改良を加えて今に至るわけで、そのデザインにそこまで言ってもらえたら、泣けちゃいますわね。
あれこれ集中できない事情をかかえながら、どうにか納得の完成度にこぎ着けてほっとした今日でした。
ご無沙汰ばかりしていますが、元気でやってます。
ナラ突き板の現代仏壇ーシンプルで芳醇 [現代仏壇]
お久しぶりです、僕は元気でやっておりました。夏場は大工さんのアルバイト、9月からはたまってしまった自分の仕事に集中しています。今日やっと納めた仕事ですが老人ホームの居室用の現代仏壇です。
Tさんの宗派は戒名の軸を飾るのだそうで、奥行きは少なめでシンプルに、でも僕らしい事をというご要望です。
扉を閉じた状態は簡潔に、でも開くと扉の裏の彫り込みに6個のレリーフと棚板が木目彩色という芳醇な世界がという設定です。
今回は無垢材にはこだわらないご様子だったので、突き板ベニアを使った合板構造にしました。箱物に関しては無垢にこだわらない方がいいと僕は思っています。ただ今回の合板はただの合板ではありませんよ。
突き板の貼り方を説明するために、これはシルキーオークの突き板です。
4枚の突き板を右左同じ向きに並べて貼ってゆくのを「追い貼り」といいます。現代はほとんどがこの追い貼りです。あっさりしていることと、部材を取る時の歩留まりがいいのが大きな理由です。
これは一枚おきに左右を反転させて並べた状態。接ぎ口を中心軸として木目が反転するので「ブック貼り」といいます。現代ではめったに見ない貼り方です。大きな面積でこれをすると見方によっては、くどいということと歩留まりが悪いのが理由だと思います。
でも今回は物が小さいのでこのブック貼りにしました。写真は4枚の突き板が貼られているんですが、髄線の斜めのパターンが対象形になってV字を描いているのが解るでしょうか?こういう効果が得られるのがブックならでは、なのです。
すべてのパーツをブック貼りで特注しました。
さて、これはランバコアの断面です。ファルカタというとても軽い芯材の両面にベニアを接着したような断面です。突き板仕事というのはこのランバコアの表面に
2.5ミリ厚の突き板を貼ったベニアを貼付けて行って、まるで全体がナラの無垢材でできているかのような状態にすることですが、この断面を考えるとファルカタを芯として表裏2枚ずつ、合計4枚のベニアが使われることになります。厳密に言えばランバコア表層のベニア2層は無駄なことになるわけです。
そこで今回は桐の集成材を自分で納得するまで削り直して、その表面にナラを貼ったベニアを接着することにしました。というのは既成のランバコアは平面精度があまり良くなくて、大きな家具を作る分には気にならないのですけど、今回のように物が小さくて精度が要求される場面だと気になるのですね。
加えてランバに突き板ベニアを貼るという方法ですとどうしても無駄な層が無駄な厚みになってしまうので、薄くて繊細でかつ精度が高いという次元を醸し出しにくいのです。
そこで今回は桐を芯材とした自家製ランバという仕様にしたのでした。
本体が組み終わってほっとして、次はレリーフのパーツの加工ですが、今回はなかなかいい材料が見つからず、2件目のホームセンターでようやく出逢えました。2枚だけ、今回のパーツにはこれしかないだろうという材料です。
写真の左の材が特によく写っていますが、年輪が細かくてくっきりしています。これに出逢うために数百枚はひっくり返しました。
端の方で実験です。
わずか25ミリ角の中に見事な木目が出ましたよ!
安心して本番の加工。
快心の木目です。
この木目が尖ったところを狙って彫り込むと、
これも狙い通り!
でもね、このパターンは20回やり直しました、、、。そうしてようやく今日納品。
偶然ですが、先に用意してあった無印の家具もナラ材でまったく違和感がなく、
カーテンの色と合わせた彩色の棚板もちゃんとコーディネート出来ました。
ナラ材で作ったつまみもさりげなくおしゃれ。
ブックマッチの突き板とレリーフの納まりです。
快心のパーツを見てくれますか?
20個作り直した成果ですよ。
これはあっさり決まったね。
たった25ミリ角の中にこれだけの木目が出る材がよくも見つかったものです。
見事に楕円。
この不規則な木目がいい味出してます。
最後はこれ、
やったね!
身内の健康問題で集中力を欠き、本体も扉も作り直したというギョエー!!!な制作でしたけど、最後は納得の完成度にこぎ着けました。お客さんの幸せそうなお顔に癒された日でした。
Tさん、何もかも信頼して任せていただいて嬉しかったです。ありがとうございました!