オンタイムプロジェクトー3 「木のレリーフ」 [オンタイムさんのお仕事]
レリーフの記事は連載するつもりでしたが、訳あってひとつにまとめます。写真が90枚近くになる長編になりますので、お時間のない方はどうぞスルーして下さい。
レリーフは、修理工房を仕切るガラス面に両面テープで接着ということになりました。最初の会議では直径20センチほどのギヤーを5個程度の構成という方向性でしたが、どうデザインしてもギヤーという特徴のある形にうまく木目を表現しきれないイメージが払拭できず、ならばと時計のデザインに変更したのでした。
最初は時計の基本構造を勉強したり、ギヤーの種類を調べたりして、ひと月以上の間に20通りは考えたかと思います。時計と決めてからは早かったですけどね。腕時計店に時計のレリーフですから素直ですし、もしも他の店舗にもとなればバリエーションも出しやすいという考えもありました。
レリーフは95センチ角に収まる範囲ですから大きなものではなく、むしろ小さいと言えます。というのは収まりのいいパーツの大きさを決めてゆくと一つのパーツは5センチ角前後になり、その中に感動させうる木目を表現するのはかなり厳しい仕事になるからです。
木目の要素の構成はこんなふうに考えました。1~4は四方に広がる木目。楕円で囲まれた3っつのグループは上から、ブックマッチ(対象の木目)、繰り返しの木目、円形の彫り込みのバリエーション。針と中心は揺れる木目という構成です。
さて国本、入魂のレリーフ製作がスタートしました!
ワンバイ材です。断面寸法18×85ミリ、長さ1,8メートル、これで200円前後。安いでしょう?でもこれを選ぶ理由は安さではないのです。
上がツーバイ材で厚みは倍の38ミリありますが、年輪の幅を見ると、ワンバイ材の方が圧倒的に細かい。おそらくワンバイ材に振り分けられる丸太は成長の遅かった細い丸太がほとんどなんだと思います。今回のレリーフは5センチ角前後の中に感動の木目を引き出さなくてはいけないので、このワンバイ材の他の選択肢は考えられないのです。
ホームセンターに6回通い、毎回150枚ほどをひっくり返して15枚ほどを選んできたので60枚に1枚の確立でしか使える木目には出会えないことになります。どれも選びに選んだ、一癖も二癖もある木目。
その曲者を6枚切り出しました。
えぐりの線を引き、
バンドソーで挽いた結果は、
狙い通りの木目です。
左上と右下は木目が微妙にずれているので使えません。選んだ4枚を切って並べた結果は、
絶妙な美しさ!いい感じです。
今度は両側に色の濃い帯がある個体、
ありゃりゃ、もっと木目がV字になって欲しかったのですが、これは使えません。
今度は年輪の半径がもっと大きな個体、これならもっとV字になってくれるでしょう。
OK
ほらね、先のものと比べると稜線での木目の切り返しの角度が違うでしょう?左を切り出して並べると、
ね?蜘蛛の巣みたいな、不思議なパターンになります。
今度は星形を目指しますよ~。
まずまずですが、V字の角度がきつすぎるのでサンダーでもう少し角度が開くように削り直してから並べました。
OKです!
中央の木目がはっきりとした個体です。ここから楕円の木目を引き出します。
これもやっぱり6個中4個を選んで、
こうなりました。
ここまでの「四方に広がる木目」は4個で見ごたえがあればいいのですから、まだ難度は低い。でもここから先は「5センチ角ひとつでの感動」ですから極端に難しくなります、、、。ちょっと不安がよぎります、、、。
中央にアテと言って、細胞の壁が厚く、色の濃い部分のある個体です。
狙い通りのいい木目が出ましたが、さらにひと手間、この平面を斜めに落として、
ね?こうすれば平面から彫り込みにかけての木目の流れが面白い。これは合格。
今度は稜線がうねうねしたものですが、まだ80点です。
まだ80点。もっと「うねり」がはっきりと解るものにしたい、、、。これに適した個体はないかとあれこれ材料を探すと、
ありましたよ、超くせ者!!!ここからふたつ削り出した結果は、
やっと納得できました。
さて今度は「円形の彫り込みのバリエーション」です。
半球型の彫り込みが色の濃い縞を馬蹄形にさせる予定ですが、さて。
縞はいいけど他の部分の木目がぼやけていてぱっとしないのでもうひとつ。
これならどうでしょう?
意外と短調でした(^_^;)。では同じ材でも半球型をやめてうねりのある彫り込みにしてみると、
これならいい!しかもおっさん顔発見!
ワッハッハ!張り詰めたところで息抜きになりました。
次は花びら型と雪だるまのような。上の型を使って正確な位置に彫り込みを入れた結果は、
これは一発で決まりました。
これはいまイチ。
これもつまらない、、、
これはバッチリだけど、木質の柔らかいところが欠けやすいので、同じ材で彫り込みの速度を限界一杯に遅くして、もう一度。
焦げは出ましたけど、サンディングでなんとか落とせる範囲。
綺麗に仕上がりました。
これは一個で決められました。
以上が「円形の彫り込みのバリエーション」です。
次のグループは「ブックマッチ(対象形)のバリエーション」です。
17ミリ厚の材の両側に6ミリの板を貼り合わせて中央でいろんな切り分け方をします。これは単純にS字で、その結果は、
大きなうねり。一個でも面白みがあるものが対象形になることでさらに見ごたえが出ますね。5センチ角で感動させるには知識も技術も総動員です。
もうひと波。
OK
次はまっすぐ行って急にうねる。だから木目も急にうねる。
5センチ角ってこんな小ささですよ。
バンドソーや彫り込んだ直後はぼそぼそですから、ひとつひとつこうしてチマチマと仕上げています。
もうひとつの形がなかなか決まらず、泥沼に陥りました、、、。
S字でさらに斜め、というのが面白いとやっと解ったけれど、イメージ通りの木目が出るまでにさらに5個、、、
もう1個でやっと納得。
いいねぇ!
今度は材の長さを18ミリほどに切って、それぞれを山形に削り出す。
最高~!大きく欠けた一個ははねて、三つずつを対象に並べる。
これを正確に接着して切り落とせば、
手のひらの宇宙だね?
「ブックマッチのバリエーション」が出揃いました。
今度は「繰り返し模様のバリエーション」ですよ。
波波に切れてます。パカっと開くと、
ウシシの木目!
ピンがボケましたけど、中央が元素材で左はかまぼこ型で右を山形。真ん中の濃い縞模様が横一列になってますけど、
断面によってその出方が変わるのがわかりますか?
これは約10ミリピッチの小さな波。
これはV字のしゃくりですが、左下の4個目でやっと納得。
これで「繰り返しのバリエーション」が終了。針と中心以外は全部出来ました。ここまでで10日かかっています。一個を得るのに3個作って選んでいるのですから、すでに100個は作ってますね、、、。
さて残すは針と中心!
針に使う材は色味の違うものを使います。この2枚の板は同じパイン材なのですが、左は100度以下の通常の乾燥温度で右は「サーモウッド」と言って、200度を超える乾燥温度なのです。だから所謂キツネ色に焦げているわけです。「湿気を吸わず腐れにも強い」という特徴があるんですが、全体の色味と年輪のコントラストや塗上がりの良さにも特徴があります。
ただ材質がもろい性質があって、角が欠けやすくこういう加工は無理でした。
こういう加工なら大丈夫。
断面で年輪が斜めのtころを使って、
波々、
これはいまイチ。
ならば短く切って、えぐりと山形に、
これを一個飛びに反転させると、
ボケちゃいましたけど、目標の「うねる木目」になります。
中心の円盤の木目が左手前に決まるまで、12個作り直し、、、(^_^;)
真ん中にたぬきがいます(笑)
さて、長針は20ミリ巾、短針は30ミリ巾です。できかけのパーツを並べてみると短針は同じサーモウッドの濃さですと重くみえて具合が悪く、結局短針はもう少し薄い色身のキハダで作り直し、中心も「たぬきさん」は遠慮いただいてワンバイ材で作り直すことにしました。
あらら、削って納得の木目なんですけど、たぬきさんに加えて大きなクマさんも出てきましたか?
キハダ材の年輪の中心をかすめたような部分です。ここなら小さくえぐってもいい木目が出そうです。
やった!予想以上の木目です!
全てのパーツが出揃いました!!!
下の「うねうね」に4番の四方に広がる木目、上の5個は「円形の彫り込み」
上の5個は繰り返しのバリエーション。
三日月、星形にブックマッチのバリエーションです。
短針に
長針。
今回はガラスの表から両面テープで固定するので裏から見るとテープが丸見えです。それではみっともないということで工房側も最低限の化粧をすることになりました。そこでシナ材とウォールナットの市松でリズム良く。
断面が綺麗なようにシナの1.6ミリの曲げベニアを2枚プレスして、ウォールナットのパーツはさらにその表面に0.2ミリの突き板を貼ってます。
細部はこんな感じですね。
2週間、材料と形の最適の組み合わせを夢中になって考える日々でした。
たった50パーツしかないこのレリーフは、
100個の犠牲によってやっと出来上がりました。3個に1個しか採用にならなかったんですね。妥協はゼロではないけれど、極めて高い妥協点で納得の作品にできると確信しています。
ここまでやればもちろん採算割れ、でもそれでいい。大きな夢だった商業空間で初めてこの世界を見せることができるチャンスですし、この作品を見て幸せだと思ってくれる人がきっといるはずですからね。
何かに突き動かされ、模索し続けて来て、次の世代のために残すべき次元に自分が立っていることに気がつきました。僕個人のためだけではなく、社会のなんらかの利益のために僕がなすべきことがある、ということに。
チャンスと理解を示して下さったオンタイムの関係者の皆さんに、心の底から、ありがとうございます!
6月13~14日に取り付けに行きます。完成の写真がうまく撮れましたら、またアップします。
長い記事にお付き合いいただきありがとうございました。
絶好調ですね!
こだわりが人を感動させます
by COLE (2013-06-02 22:14)
凄い人だなぁ kuniさんは(^v^)
by mipoko (2013-06-02 22:30)
いや~、相変わらずすごいコダワリの工程と探求!でも不特定多数相手の商業空間だからこそ、ホンモノが持つ力が伝わって人の心を動かすと思います。
by opas10 (2013-06-02 22:41)
木の切り方一つで木目も随分と違って見えるから面白いですね
by yanasan (2013-06-02 23:40)
4枚に切って並べた木目はまるで万華鏡のようですね☆
kuniさんは木目の魔術師です✿
by めりー (2013-06-02 23:41)
カーブ定規、懐かしいです^^
微妙な木目の違いで、随分と見え方が変わるのですね。実際に目の前で切ってもらった時のことを思い出しながら読みました。
kuniさんマジックがさらに進化したレリーフですね。
完成写真、楽しみにしています♪
by みち (2013-06-03 00:45)
技術の根底は人柄ですよね。うちは部屋の寸法はちょっと変わってるので既製品が合わず、自分でちょちょっと作ったりしますがまるで駄目です。これも多分人柄です・・・。
by t-yahiro (2013-06-03 01:32)
やっと、今のお仕事記事を拝見できて嬉しいです。
レリーフの他にも腕時計台もあったりするんですね。v(^o^)v
お店オープンしたらKuniさんの作品見に行く=3!
とても楽しみにしています☆
by Sです。 (2013-06-03 03:11)
お疲れさまです!
木目を利用した作品・・・
やっぱり柔らかくて・・・良いですね〜♪^^
完成が楽しみです!^^
by hatumi30331 (2013-06-03 08:56)
凄すぎます!
感服です!!
こだわりで生み出す木目の美を集大成された
作品の完成が待ち遠しいです^^
by 木鶏 (2013-06-03 10:28)
kuni 様の持てる技術力と知識を総動員した今回の作品、圧巻です。
採算割れは当然の帰結ですね。
「それでもいい」と納得なさって制作なさる姿に感服しています。
多くの人々の心にきっと響くと思います。
by 青い鳥 (2013-06-03 18:01)
製作過程を見せていただき、
ありがとうございます。
そのパーツが組み合わさって、一つのものが完成する、一つ一つに命があり、それらが集まって
ハーモニー、素晴らしい
こだわりは、kuniさんの矜持、魂ですね
by engrid (2013-06-04 07:18)
OKのパーツはどれもため息ものです♪
まさに小さな宇宙がそこに(^-^)
取り付け作業も頑張ってきてくださいね
by KAZUYA (2013-06-04 10:41)
kuni様!!!
すごすぎますよー
また弟子に思いっきり差をつける!!!
13日、14日私も行きますか?(なんちゃって)
プリントしたいけど インク無くなりそー
結果報告楽しみにして待ってまーす
外道の弟子でした・・・
by ポメラニアン (2013-06-06 22:28)
お久しぶりです、クロカワです!
ブログを読んで、『わおっ!』『うっひゃ~!!』と楽しい時間を味わいました!笑
来週設置に来られるんですね!
いやぁ、見に行きたいっ!
完成が楽しみです♪
by kuro (2013-06-08 17:22)
ものを作る時に悩む感じ。良いですね。
自然の木目を巧みに活かしたデザインは唯一無二ですね。
by chalice (2013-06-09 12:08)
自然のものですから、やってみないと分からないものでしょうけど、ご苦労様です
木目の素晴らしい世界、いいですね
by スミッチ (2013-06-09 23:29)