ダイニングチェアー「つつみ」の製作ー前編 [ダイニングチェアー「つつみ」の製作工程]
2010年に製作した、中国産桑のダイニングセットです。これを注文して下さった方のご紹介でブラックチェリーとウォールナットを2脚ずつ製作することになりました。
これが、今回の製作のためのブラックチェリー。比較のためにアーム用に切り出したパーツを乗せてみると、中身はこんな
ほんのりピンク色なんです。下の材の表面は数年経過した色でしょうね。
7年ほど経ったブラックチェリーの「凛」を置いてみました。なんともおいしそうな色でしょう!?ブラックチェリーは焼け色の女王ですね!
そして、ウォールナット(アメリカ産)。ココアのような渋ーい色で家具材として人気の材です。この材はチェリーのような劇的な焼け色にはなりませんが、この材のいいところは、なんといっても濡れ色ですね。濡らしてみると、こうです。
新材なのにアンティークみたい!
さて、切っていきますか!?
足に関しては、頭を付き合わせるような木取り方をしてゆきます。そうすると、
上の2本のセットのように木目が対象になるわけです。それが完成すれば
ね?足の木目も、そしてアームも左右対称になってますでしょう!?
(この写真は桑の製作時のもの)
チェリーのアームの材を切り出し始めると、中から節が!ありゃー。
これもチェリーなんですけど、4箇所、焦げ茶の点が見えますでしょ?これはガムスポットと言って、樹液だまりなんです。嫌がる職人も多いのですけど、僕はこれを見ると「あーブラックチェリーらしいなぁ~」って感じるんですよね。日本の桜にはほとんど観察できないのですが、チェリーにはよく出るんですね。これは木味のうちです!
ウォールナットもこんな風に目に沿って切り始めると、、、
切ってる、足元はこんな色!
ココア、ひっくり返したみたい!?
ありゃりゃ!?中からこんな欠点が!これはさすがにハネですね。
っていうか!?
切った抵抗感から言うと、この板から取った足は全部使えません!
ガーン
しばし、ボー然と座り込む、、、。
写真では解らないことなんですけど、足にするには柔らかくて強度不足です。木ってね、同じ種類でもかなりの個体差があって、色とか木目の通りに気を取られて、硬さのことを忘れてしまうことがあるんですね。今回のウォールナットは少ない選択肢から選んだので、ちょっと油断してしまいました。今回の材は往復7時間かけて買い出してきたんですけど、足の分は買い足さないといけなくなってしいました、、、。
あ~あ、、、。○千円がパーだよ、、、。
とりあえず、近場の材料屋さんで、単価の高ーい!材を買い足して(とほほ)、
どうにか木取りは終了です。
2種の材を並べて見ると、この色の差!
さて、順調にいきますかどうか?
お楽しみに~!
前足は見ての通り、楕円の断面がわずかに曲がった形になっています。その工程は、まずバンドソー(帯鋸)でひとまわり大きく切り出し、
型に固定して、縦軸という機械で正確に削り出してゆきます。
奥の赤い円筒が鉋胴(かんなどう)。
アルミの円筒のブロックに刃物が4枚付いたもので、刃先の円周の直径と下のリングの直径が完全に一致しています。そうすると、
型からはみ出した分が削りシロとなり、
削り終われば、型とパーツは完全に一致するわけです。こうしてアウトラインが正確に決まったパーツを今度は楕円の断面にしてゆくわけです。
左の刃物は楕円の半分の形になっていて、表裏の2回削れば、楕円の出来上がりとなるのですが、型に正確に保持するために、両端は角のまま残して、その間だけを楕円に削り出してゆきます。
そして、両端を切り落とせば、前足の基本の形ができます。
まず、頭の方を、次に足先を
こうして、楕円でわずかに曲がった前足の形は出来上がりました。
初めて扱う材や、削ってみたけどなんともなしに強度に不安があれば、ふんずけて試験をしてみたりもします。
体重をかけただけでは折れません。
思いっきり、飛び上がって踏んで、やっと折れる程度なので、「これなら大丈夫」と、安心して進められます。
加工の際のわずかな誤差や、Rのいびつな場所を面鉋で微調整して、
頭の凸Rの墨をして、
ベルトサンダーで荒落とし。
手加減でヌルリとした曲面に仕上げてゆきます。
ちなみに頭が平面のものと、凸Rのものを比べてみましょうか?
ぜんぜん表情が違うでしょう?凸Rの方は、正面から木口にかけての木目の流れが見えて、表情が豊かですけど、上の方は、無表情な感じがしませんか?
ね!?こうして並ぶ様は組み立ての出番を今か今かと、ウキウキしながら待っているかのようにさえ見えます!
もう単なるパーツではないでしょう?
この前足1本にかかった手間は一輪挿し1本の手間に匹敵するのです。この椅子はそんなパーツが12個集まって出来ています。おのずとその膨大な手間と値段が想像できますよね?
でもね、こうしてひとつひとつのパーツがある瞬間をこえると、ぐっと表情が出てくるのを見ると、そこまでの手間をやっぱりかけてやりたいのですね~。それは樹木としての命を終えた「木材」が新たな命を宿すことだし、それでこそ心を動かす力を持ちうる。「木材」のままで終われば、それは使い捨てられるただの物体でしかありません。そんなの寂しいですもんね。
そうしてkuniの貧乏は続くのであった。
うるさいって!
続く~!
だれか情熱大陸に推薦して~!あはは~。
さて、次は長い方の足4本の加工です。今日の記事の見所はふたつ。ひとつはまず、貫の後ろが二本の足に挟まれている組み手。ここの加工はほんとに
めんどくさい1!
もうひとつはアームを受けている足の上端の受け口の加工。ここも
めんどくさい2!
まず、足を縦軸で削り出し、
正確にカット。
めんどくさい2の加工からですけど、これがアームの受け口を作る型で、この上にパーツを置き、
ルーターという機械にセットします。
パーツがびびらないようにしっかりクランプし、
先丸の刃物で穴を空けるような削りをします。これでおおよその受け口はできました。あくまで「おおよそ」ですけどね。
で、今度はめんどくさい1の貫がはまる部分のしゃくりの加工です。
こんな型に足を2本を組まれる傾きそのままにセットします。
その状態のまま、
貫の断面と正確に一致したしゃくりを削り出します。そこに8ミリのダボ穴の加工をし、
出来上がったパーツ3本を並べてみました。
これがどの様に組まれるかというと、
ね!?やっとわかりました?加工するのもめんどくさければ、説明も大変!(笑)
ふたつの難関を突破してちょっとだけ安心して受け口部分にまた8ミリの穴明け。
次から次にいろんな型が出てくると思いませんか!?
まだまだ出てくるよ~!
今度は面取り。
こうして治具にセットして、
ひゅーんと面を取ります。
面を取る前の足はまだ「木材」ですけど、面を取ると命が宿りますよ!
ね!?この瞬間が好き!(笑)だってねぇ、自分の手の中で育ってゆくみたいなんですもん。
さて、アームの受け口の加工は「おおよそ」って言ったでしょう?
これがアームと足のジョイント部ですけど、よく考えて下さいね。アームは楕円の断面でなおかつ「曲がっている」わけです。これは3次曲面です。これに対して、足側に加工したのは真っ直ぐな円の一部、つまり2次曲面です。これでは厳密にはピッタリとは組み合わないわけです。
どうにかして足の受け口も3次曲面にしなくてはいけないのです。そこで登場するのが、「アイロン」!
きつね色になっているのがアイロンを当てた場所。外側の両角と内側の中央にアイロンを当てて、受け口を3次曲面に変形させてしまうのですよ!うししでしょう!?
こうし足の加工は終わり、ほっとして、仕上げる事が出来ます。
チェリーとウォールナット。並ぶときれいですよね。
また、面鉋で微調整して、
ひたすら滑らかに、、、。
シャカシャカ、シャカシャカ、、、。
肩こったなぁ~。この椅子はほんと神経使うのよね~。
まだまだ続くのさ~!
貫はこのように十字の構造をしていますが、ここにはビックリ仰天!のヒミツがあるのです~。
前足の断面は楕円。横足は角丸の四角ですから、木口には別な加工をしなくてはいけません。
それぞれの断面用の刃物があって、別々に加工するのです。
こっちは横足用の受け口で、
こちらが前足用の受け口。
これらの加工が済んだら、十字の組み手の加工です。
実はこんな構造になっていまして、上の縦貫を長さ約130ミリのダボがつらぬき、横貫を接着するという構造です。これが
めんどくさいーその3!
外からは、悲しいくらいに何も見えないけれど、ジツハ、ジツハの構造でしょう!?
どうしてこんなめんどくさいことをするのかというと、こういう十字の構造には、
相欠きという組み手が一般的なんですが、
この構造は垂直=上からの荷重にはいいのですが、椅子の貫のように、足からねじれの力がかかるような場面にはまったく適さないのです。なぜなら、貫の高さの半分が欠き取られているために実際の強度は半分しかなく、ねじれにも弱い構造だからなんです。
だから、この椅子の貫は上のような複雑な構造をしています。その加工は、まず、
クロスカッターというスペーサーで溝巾を微調整できる刃物で、縦貫の側面に1、5ミリの溝を掘り、
さらにその溝の中に12ミリのダボの穴を3箇所開けます。
話のタネにこの時使うドリルの刃は鉄鋼用の刃を自分で好みの刃先に替えたものを使います。
先端のトンガリは中心軸の役目で、外周の刃は穴の側面を滑らかに切ってゆく役目をします。この研ぎ方次第で、穴あけの精度はずいぶん違うのですよ。
こういう状況になるわけですが、今この溝の巾は23.7ミリ。ところが、ここにはまる横貫の板厚は24ミリあるんです。入るわけないですよね!?
で、この横貫の角を見ると斜めの面が見えますでしょう?これは削った面なのではなく、
こうして玄翁で叩いてつぶした面なのです。
これを「木殺し」って言うのですけど、叩かれていったんつぶれても接着の時の水分でまた元の厚みに戻るのです。すると23.7ミリの溝に24ミリに戻りたがっている貫がガチガチに嵌った非常に丈夫な構造になるというわけ!
どうじゃ?すごいじゃろ!?
さて、横貫の木口にも穴あけをし、
12ミリのダボの段取りです。
万力にはさんだステンの板には、11.8ミリの穴が空いています。そこに12ミリのダボを回転させながら、無理やり突っ込みます。すると摩擦熱もあって、ダボは11.8ミリにこれまた、「木殺し」されてしまいます。
これがその結果。手前の30ミリほどは「木殺し」されていない部分。
これを130ミリほどの長さに切って、
登場したのは、「面取り君」。四角い木の内部にはカッターの刃が45度に傾いて固定してあり、
その穴にダボを入れると瞬間で、
クルリンと面が取れます。 働き者です!
さあ、いよいよ組み立て始めました。
ダボを入れるところは撮り忘れちゃった!
ブチュブチユと隙間から出てくる接着剤をブラシでゴシゴシ洗って、
十字部分は組み立て終了です~。
ひゃー、、、、。
どこまで続く~?
こんばんは
すごい手間がかかってますねぇ
ドリルの歯までご自分で作っちゃうなんて。。。
面取りの治具が良いですねぇ
(^^)/
by はくちゃん (2010-11-04 21:18)
すごい、すごい!
手作りって、やっぱりいいですね。
私の苦手な細かい作業・・・
尊敬です!(笑)
by hatumi30331 (2010-11-04 21:32)
それぞれの木を知り尽くした“癖”を熟知していないと出来ない技法ですね
by yanasan (2010-11-04 21:45)
こんばんわ!kuni様
予約した鉋は新潟の故 田中 昭吾さんの
「左寛次」寸六 青紙一号です。
今の自分が可能な金額でしたので・・・
目次様や船弘様、碓氷様なんて
手が出ません・・・(涙)
ファイリングは少しずつやって勉強させていただきます。
by ポメラニアン (2010-11-04 22:11)
面取り君...欲しい...♡
瞬間で面取りできるなんて(^人^)よっ!にっぽんじん!働き者だねぇ〜
相欠だと椅子のような物には不向きなんですね〜
毎回毎回ほ〜ほ〜 ってPCの前で腕組んで吠えています(^^
そうそう 前回の脚の写真みて 娘が「ゾウの鼻みたいだね〜かわいいね〜♪」と喜んでいました
実際の作業を見に行きたいけど今味噌作ってるから結構忙しいのですよ
あぁ 味噌作りの行程でもアップしようかなぁでも作業中は手がヌルヌルで写真はキツいなぁ〜(^^;
by sodep (2010-11-04 22:59)
この構造には脱帽ですね!!
木工ドリルの研ぎ方が流石に見事です。
自分は薄い鉄板用の一文字研ぎでいっぱいいっぱいです。
何度か私用で木工ドリルを作りましたが本当に難しいです。
更には溝とダボの部分。
手抜かり無いですね~
私も早いところ家の外溝作業(木製フェンス設置)をいい加減終らせて、木工遊びを出来るようにしなければ。。。
by レイリー (2010-11-04 23:03)
こんばんは
いやぁ~職人のイイ手をしてますぁ~
ちょっと視点が変な男です^^;)
by Dandelion (2010-11-04 23:23)
いい仕事してますね~。。。ってぱくってしまった(笑)。
お疲れ様です。情熱大陸出れそうですね。
売り込んでみたら?
by chalice (2010-11-04 23:37)
お疲れ様です、いつも読み応えがありますね。シリーズ完結後に最初の記事から読み直すのがまた楽しみなんですよね。
by こけもも: (2010-11-05 02:01)
「木殺し?????」そんなのしらなかった。理屈は分かるけれど、木工の奥の深さのそのまた更に深い所を見せてもらった思いでいっぱいです。感謝。
人間のアイディアを実現させるということは、とてつもない時間と先人の努力の結晶なんだと思いました。それを活かす場と技術が不離のものなんですね。「それじゃあ駄目なんだ」という事が分かって、さてではどうするのか?
奥の深さを味合わせてもらいました。感謝。
by kjisland (2010-11-05 04:14)
冶具を凝視してしまいます。
錐を研いでいる指が働き者の
指ですね。
by t-yahiro (2010-11-05 06:18)
部品一つ一つのこだわりを感じますね。
この細やかさが、イイものを作り上げてて行くことになるんですね。
by ポートス (2010-11-05 09:31)
メッセージ、ありがとうございます。
いつも、感心しながら拝見させていただいております。
ものを創り出す職人技というのは、
本当に感嘆させられることの連続です。
私も、どちかというと「創る人間」なのですが、
どうも手先は不器用なほうで。。。
by cjlewis (2010-11-05 10:31)
この穴あけ機、欲しい~(笑)
こんなにきれいに組み合わさっていくのを見てると
ほんと気分いいです~^^
by めりー (2010-11-05 11:05)
どこまで続いても一向にかまいませんよ~。
読む度に新しい発見と感動がありますから。
by 青い鳥 (2010-11-05 13:04)
>はくちゃんさん、道具箱に入っているドリルの刃はほとんどこうした改造をしています。だからたまに金属に穴をあけなくちゃいけない時は買いに走る羽目になったりします。(^_^;)
> hatumi30331さん、すごいでしょう!?kuniはこれでけっこうスゴインデス!(笑)
>yanasan さん、職人が材料の特性を熟知しなくちゃいけないのは当然のことですよね、、、。 yanasanさんも、でしょう!?ラッカー、ウレタン、ポリ、エポキシ、などなど、塗料は日進月歩だから大変でしょうね?
>ポメラニアンさん、君が並べた名前は横並びの世界なんだと思いますよ。田中昭吾で出せなかったら、それは腕の問題ですな。
>sodepさん、「毎回毎回ほ〜ほ〜 ってPCの前で腕組んで吠えています」って、想像すると笑えますね!?ひひひ。
ゾウの鼻は初めて聞いたなぁ。
味噌の仕込みですか?カメラをラップでくるんでシャッター押せば出来るでしょう!?
僕が接着の時につらいのと同じですね。
>レイリーさん、「薄い鉄板用の一文字研ぎ」って?初めて聞いたのですけど、どういうのでしょう?ネットで調べてみたけどわかんないです。
え!?木工遊びが課題なんですか?それはそれは、、、楽しみだわ~。
>Dandelionさん、やっぱり気が付かれちゃいましたね。手の指は6怪我をしてるんで、皮膚がぼろぼろなんですよ。(^_^;)
>chaliceさん、情熱大陸?やっぱり自薦より他薦でしょう?推薦して下さい!(笑)
> こけもも:さん、「シリーズ完結後に最初の記事から読み直すのがまた楽しみ」って、そうだったんですか!!!?これはこれは記事を書いている甲斐があるお言葉を、ありがとうございます!ところでリョービのベビーサンダーが壊れちゃったんですけど、どこかに転がってませんか?(笑)
>kjisland さん、「木殺し」ってね、裏技みたいなものですから、あまり表には出てこない話でしょうね。「先人の努力の結晶」これはしみじみ思うことがありますよ。追々記事にしてゆきましょうね。
>t-yahiroさん、「冶具を凝視してしまいます」って、やっぱりお好きなんですねぇ?このブログは企業秘密にしておくべきこともどんどん書いているんで、面白いでしょう?旧ブログはそういう意味で宝の山だったんですよ。まぁ、少しずつ復活させていきますからね。
>ポートス さん、はいー確かに細かいですよね。基本的にいろんなことに細かいんですよ。私生活でも気になることが多くて、自分で時々いやになることもあったりします!?(^_^;)夫にはしない方がいいタイプかもしれませんね!?(笑)
>cjlewisさん!初めてのコメント、とっても嬉しいkuniです!あのね、あのね、聞きたいことがふたつあるんです。まず、ハンドルネームは何と読めばいいのですか?それから、アイコン。これは何の画像なんでしょう?、、、、質問攻めですね?
>めりーさん、「ほしい」???何企んでるんですか!?お弁当に使う?わけないし?DIYだとすると、、、あ、そういえばチョウバンなんかも取り替えてたりするし、、、うー、、、何???(笑)
>青い鳥さん、あ~、ちょっと安心です。二度目の内容なので、記憶のある方は「なんだぁ?」って思わないかとちょっと心配していたんですけど、間違いなく記憶しているはずの青い鳥さんが、そうおっしゃって下さると、安心です!
まぁ、一回で覚えられるような軟な内容じゃないですかね!?
by kuni (2010-11-05 15:21)
こうした目に見えないところが違うんですよね~。でも目に見えないと、なかなか価値を伝えられない。だから、kuniさんの作品のブランドを構築するためにもこのブログが大事なんですよね。
by opas10 (2010-11-07 12:48)